好きになっちゃ、だめでしたか?
 水族館最寄の駅に着いて改札を抜けると、春樹君はわたしに手を差しだしてきた。

「手、繋ごう。迷子になっちゃうから」

 春樹君の大きな手は傷なんてひとつもなくて奇麗だ。

 わたしはこの手を握ってもいいのだろうか、そんな資格がわたしにあるのだろうか。

 黙って立っていると、春樹君はわたしの手を自分から握ってくる。

「は、春樹君」

 そのまま、水族館に向かって歩いていく。

「ん?」

「手……その」

「今日は1日こうしてたいんだけど、ダメかな?」

 春樹君は口元を緩め、わたしに綿あめみたいな甘い視線を送ってくる。

 そんな目で見られたら、きっと女の子全員が勘違いしちゃうよ?好きな人以外に、そんな目を向けたらだめなんだよ?

「いい、の?」

 なのに、わたしは離してほしくないと思ってしまう。

「ダメなの?」

「ううん、ダメじゃ、ないです」

 心臓が壊れてしまいそうだった。

 街を眺めてみると、わたしたちのように手を繋いでいるカップルがところどころにいる。

 みんな幸せそうな顔をして、お互い見つめあって。

 きっと、好き同士なんだろう、と思うと、心臓がきゅっと痛くなる。

 水族館に着いてお金を払おうとすると、もう買っておいたから、と春樹君は館内の人にスマホを見せ、そのまま中へとはいる。

「お金、返す」

「いいよ、初めてのデートなんだから、これくらいさせて。ずっと夢だったんだから」

 ずっと夢だった。好きな人と手を繋いでデートすることが。好きな人と水族館に来ることが。

 だからこそ思う。

 大切なデートなのに、偽物の【るい】でいいの? 春樹君、全部分かってるくせに、どうして平気な顔して笑おうとするの?

 
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