好きになっちゃ、だめでしたか?
「わたしが好きなのは、その……春樹君だけだから」

 本心だった。わたしは春樹君のことが好きで、春樹君から離れたくなくて。

 ずっとこうして恋人同士でいたい。春樹君のいろんな顔を見ていたい。

「ごめん、なんか余裕なくて。幼い頃から僕のこと見てくれないかなって思ってたから。2人で出かけたいとも思ってたし、その、キス、したいとも思ってた」

 顔に一気に血が集まったせいで熱さを感じる。そんなことを言われたら、違うと分かってはいてもますます好きになってしまう。

「そ、それは、その……」

 春樹君の言葉が直球すぎて、頭の中がショートしそうになる。

「今日は、僕のことだけ見てもらえる?」

「あ、当たり前だよ。春樹君のことしか、見てないよ」

 彼は再びわたしの手を握ってきた。さっきよりも強くて、ときどき手が痛くなった。けれど、嫌じゃない。

 小さな水槽の中の魚を覗くとき、春樹君の顔が近すぎて心臓が破裂するかと思った。

 餌やり体験コーナーでまるで子どものようにはしゃいでいる春樹君が可愛いと思った。

 水族館を一通り見て回ったあとに近くのカフェで休んでいると「おっとお、すみません」と、いかにもわざとらしい声が聞こえた。

 しかもその声に聞き覚えがある、と言うより、毎日その声を聞いている。

「まさか、お兄ちゃん……?」

 ゆっくりとその人に目を向けると、そこにはやっぱりお兄ちゃんがいた。

 家からおよそ1時間あるこのカフェに、たった1人でいるお兄ちゃん。こんな偶然あるわけがない。

「え、留衣の、お兄さん?」

「え、いや、ち、違う」

 わたしは首を強く振る。

「そう、留衣のお兄さんです。いや〜偶然だね。混んでるし、同席してもいいかな?」

 確かに空いている席はなく、だったらどうしてこのカフェにはいったんだと問いただしくなった。
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