好きになっちゃ、だめでしたか?
「ちょっとね、たまたまこの辺にしかない参考書を買いにきてて。ほら、都心の本屋のほうが品揃えいいでしょ? で、疲れてたまたまここはいったら、妹の姿があったってわけですよ」

 と、いかにもわざとらしい理由を並べたお兄ちゃんは、ちゃっかり春樹君の隣に座っている。

 春樹君は緊張しているのか、背中がさっきよりもぴーんと伸びている。

 でも正直、お兄ちゃんが来てくれてほっとしている自分もいた。

 春樹君の笑った顔を見るたびに、それがわたしではなくるいさんに向けられるものだと思うと、彼の前で涙を流してしまうかもしれない。

 今は堪えているけれど、ふとした瞬間に糸が切れてしまうかもしれない。

 でもお兄ちゃんが一緒なら、きっとどうにかしてくれる。

「実は同じ高校で、何度か目にはしてたんだけどね。話しかける機会もなく」

「あ、そうだったんですね。失礼しました」

 と、春樹君はお兄ちゃんに向けて頭を下げた。

「あと、留衣。なんか親父がはやく帰ってこいって。母さんの誕生日会やるから」

「え」

「誕生日の明日は夫婦水いらずで過ごすからって、言ってただろ? だから前日に家族でやろって」

「あ、ああ、うん、忘れてた」
 
 そんな約束はした覚えがないし、そもそもお母さんの誕生日は来月だ。

「あ、そうだったんですね。そっか、じゃあ、今渡さないと」

 春樹君は鞄からさっきの水族館の紙袋をだして、わたしの前に置いた。小さな紙袋だ。

「これは?」

「留衣がお土産コーナーで見てた、キーホルダー。なにかプレゼントしたくて」

 春樹君はやっぱり優しく笑う。

「あ、ありがとう」

 袋を開けてみると、そこには確かにさっき見ていたクリスタルのイルカのキーホルダーがはいっていた。

 出してみると、カフェ内の電気を反射してきらきらと光る。

 こうして見ると、本当に可愛い。

 でも……本当は、わたしじゃなくてるいさんにあげたかったんだよね? そんな言葉を呑み、もう一度「ありがとう」と伝えた。

「よかった、喜んでくれて」

「うん、本当に、嬉しい」

 春樹君との思い出が積もれば積もるほど、きっと別れるときに辛くなってしまう。

 このキーホルダーだって、嬉しいものから悲しいものになってしまう。

 それでも、今のこの時間を大切にしたいと願う自分もいる。

「留衣、誕生日プレゼント用意した?」

 泣きそうになったとき、お兄ちゃんの声がわたしたちを遮った。

「あ、ううん、してない」

「じゃあ、春樹君だっけ、申し訳ないけど、今日はここで解散ってことでいいかな? こいつが忘れてたのがいけないんだけど」

 お兄ちゃんはいかにも営業スマイルを浮かべている。

「あ、いえ、全然。素敵な家族だと思います。留衣、また学校でね」

「じゃあ、また」

 お兄ちゃんはわたしの腕を掴むと、半ば強引にカフェをあとにした。

 
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