好きになっちゃ、だめでしたか?
「いやー、あれはなかなかの演技ですわ」

 母さんの誕生日来月だし、プレゼント買ってくか、とはいった雑貨店で、お兄ちゃんはまるで映画監督のように感心している。

 春樹君からイルカのキーホルダーをもらったとき、もしお兄ちゃんがいなければ泣いていたかもしれない。
 
 泣いて、春樹君を困らせて、どうしようもできなくなっていたかもしれない。

「俳優になれるよ、あの演技力」

「確かに、そうだね。わたしも本当に好かれてるって、勘違いしそうになったもん」

 春樹君の笑った顔、わたしを見る目。全部に好きだという気持ちを感じてしまう。

「今のままで、本当にいいわけ? 今日はさ、大切な妹のために、わざわざ尾行までしたんだけど」
 
 お兄ちゃんはわざとらしく【大切な】を強調する。

「ちょっと待って、ってことは、もしかして、見、見てた?」

 お兄ちゃんは口元と目をにやつかせる。これは絶対……見てたやつだ。

「もしかして、水族館内でのキ」

「そ、それ以上は言わないで」

 思い出すと、また顔が熱くなってくる。

「いやー、本当すげえわ。俺だったら絶対あそこまで演技できない。デートはできても」

 お兄ちゃんはお母さんが好きそうなピンク色の花柄のティカップを手に持っている。

「キーホルダーにしてもさ、好きでもない人のためによく買えるよな。いや、そもそもチケットもそうか」

 お兄ちゃんは、無意識なのか、わたしの心を抉るような言葉を次々と発している。

「って、ごめん、つい」

 すぐにお兄ちゃんはわたしに顔を向けて、肩に手を置き「まあ、これも楽しい思い出だ。あんなイケメンと恋愛できるなんて、なかなかない」と励ましているのか分からない言葉を投げてきた。
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