好きになっちゃ、だめでしたか?
 妹は話が終わるとようやく焼きそばを食べはじめる。

 神山のことを考えれば考えるほど、あいつが本当は誰のことを好きなのか分からなくなる。

 そのとき「あー、ここにいたんだ」という声が響いてきた。

 見るとフルーツジュースらしきものを持っている矢崎と留衣がいて、俺たちの席の空いている椅子に腰かけた。

「大野の妹さんだっけ、楽しんでる?」

 初対面にも関わらず、矢崎はまるで昔からの知り合いのように話しかけた。

「あ、はい。えっと」

 妹は、矢崎の顔をちらりと見る。

「あ、ごめんごめん。留衣の友達の矢崎一華です。まさか大野にこんな可愛い妹がいたなんて」

「あ、いえ。今日は、その……そう、ここ受けることにしたので、どんな感じかなって見にきたんです」

 妹は分かりやすく目を泳がせていて、誰も聞いていないことをぺらぺらと話しだす。

「そうなんだ。紗季ちゃんなら絶対大丈夫だよ。昔から頭いいし」

「留衣さんに言われると、自信つきます。ありがとうございます」

 そのとき遠くに神山が姿が見えたが、隣にクラスメイトの男子がいてこっちには来そうにもない。

 けれど、留衣のことを気にしているのを隠しきれていない。

 まず、俺が神山に気付く前からおそらく神山は俺たちに気付いている。

 俺が気付いたときには神山は留衣を見ていて、なにかを話したそうに唇を動かしていた。

 少し離れた席に座ったあとも、ちらちらとこっちを向いていて、全然クラスメイト達との会話に集中できていないようだ。

 人で混雑している体育館内で、神山の神経はおそらく90%以上留衣に集中している。

 そんなんだったら話しかけに来いよ、と言いたくなるくらいに分かりやすい。

 そういえば、神山が女子と話すところをほとんど見たことがない。

 留衣と付き合ってたから、と思うけれど、それでも事務的な会話でさえ、女子とは一定の距離を常に取っている気がする。あのるいとでさえ……。
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