双子を極秘出産したら、エリート外科医の容赦ない溺愛に包まれました
洗面台に手をついて呼吸を整える。胸はドキドキとしていつまでも落ち着かない。

付き合っていた頃、マンションへ行くと彼はいつもそのまま葵を抱きたがった。

葵はそれが恥ずかしくてシャワーを浴びさせてほしいと頼んだのだ。

『なら髪を乾かすのをさせてくれ』

晃介はそう言って、葵の願いを聞いてくれた。
だからドライヤーをかけるのはふたりにとって特別な行為なのだ。

スイッチが切れる音は、ふたりの中の始まりの合図だったから……。

しばらくすると晃介が脱衣所へやってくる。

狭いスペースで重なり合うようにして、後ろからドライヤーをもとの場所に戻そうと腕を伸ばす。

その彼と、鏡越しに目が合って、葵の鼓動がどくんと跳ねた。

晃介の瞳に、あの頃と同じ色が浮かんでいるように感じたからだ。

彼はそのまま手を止めて、葵の髪に視線を送る。

そしてもう一度ドライヤーを手に取った。ゆっくりと、コンセントを挿す。

緊張で息苦しささえ覚えるくらいだった。スイッチが入り、大きな手が頭に触れる。
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