息霊ーイキリョウー/長編ホラーミステリー
死者からの手紙/その2


”うわあ、あのまま爆睡しちゃったわ。まあ、疲れていたしね…”

翌朝、目を覚ますと7時半だった。

律子が着替えを済ました後、間もなくして部屋に賄いさんが朝食を運んできた。

「…お客さん、昨日の夜中、悪臭しませんでしたか?」

「いえ…。11時前には眠ってしまったんで、全く…」

「そうですか…、よかったです。私たちの寝ていた調理場の隣は結構臭いましたが、3階まではたちこまなかったのかもしれませんね」

律子が宿泊した部屋は、調理場の斜め上に位置する3階だった。

「あのう…、原因は何だったか、わかったんですか?」

彼女は恐る恐ると言った口ぶりで聞いてみた。

「いえ。ただ、従業員の一人は外で煙のようなものが起っていたって言ってましたね。まあ、何かが燃えるような臭いじゃなかったし、火事とかガス漏れってことはないと思いましたから…」

「どんな臭いだったんですか?」

「生臭いって言うか、腐臭ですかね」

「…」

この会話はこれで終わった。
律子はあえて今は余分なことは考えようにしようと、そう自分の心に言い聞かせていた。

...


午前9時過ぎ、律子は旅館を出て尾隠しに向かってバイクを走らせた。

多田によれば、役場から隠山トンネル近くにまでは、車なら約20分ちょっとで着く距離ということだった。
そこから向井祐二の家の住所まではほんの4、5分程度らしい。
もっとも、ひたすら山の中を入って行くようだが…。

トンネルまでは難なく迷わずにたどり着いた。
律子は一旦エンジンを止め、ヘルメットを取るとバイクを下りた。
そして、何とも神秘的な静けさを醸す隠山トンネルの入り口に佇んだ。

”つい数日前に初めて来たのに、懐かしい…。なんで?”

思わず飛び出した”なんで?”ではあったが、律子にとっての”どうしてだか”は、それなりの見当がついていた…。



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