※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「初めまして、僕はディミトリーだ」


 少年はそう言って穏やかに微笑みました。アリシャは同じように自己紹介をします。表情は変わりませんが、気持ちは急いていました。とにかく食事がしたかったのです。


「この子から事情は聞いたよ。大変だったね。さぁ、中へどうぞ」


 そう言われるや否や、アリシャは遠慮なく屋敷の中に入ります。
 中にはディミトリーの他に、数人の使用人が居ました。皆お揃いの服をキッチリと着込み、上品で洗練された佇まいをしています。
 彼等はアリシャの様子を見るなり、甲斐甲斐しく世話をしてくれました。
 たくさんの温かい食事に、冷えた身体を温めるガウン、湯浴みの準備も進めてくれます。


「どう? お口に合うと良いんだけど」

「美味しいです。ものすごく、美味しい」


 さすがのアリシャも、それ以外の言葉が出てきません。久々の食事は涙が出るほど美味でした。そもそも、温かい食事が取れるのも、食事に肉や野菜がこんなに入っているのも、実に数年ぶりのことです。


「アリシャは細いから、たくさん食べた方が良いと思う」


 ディミトリーは気の毒そうな表情でそう言いました。アリシャの身体には殆ど肉が付いて居ません。姉達の数年間の嫌がらせの賜物です。ディミトリー達には、彼女がこれまでどのような生活を送って来たのか、容易に想像が出来ました。


「もっと食べても良いのですか?」


 言いながら、アリシャは瞳を輝かせます。お腹が満たされると、イライラも大分マシになってきました。すると、先程の妖精に意地悪な物言いをした自分が、少しだけ恥ずかしくなってきます。


「――――連れてきてくれて、ありがとう」


 ディミトリーの背後からひょっこり顔を出した妖精に向かってお礼を言うと、妖精は嬉しそうに笑いました。


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