※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「サロメ様との婚約を破棄してほしい――――自分が彼女と結婚したいのだと、セオドア様は旦那様に仰っておりました。聞けば、サロメ様のお父様に何度も掛け合ったものの、相手をしてもらえなかったというではありませんか。
旦那様も、元々結婚に乗り気だったわけではございませんから、一度は彼の願いを叶えて差し上げるつもりだったのです。
けれど、あなたの義母様や妹様はああいったご性格。とてもセオドア様との結婚が許されるとは思えません。

【君自身がサロメを迎えに来れるその日まで、私が彼女を守ってあげよう】

それが、旦那様とセオドア様が交わした約束でした。そこから先もお二人は交流を重ね……旦那様にとってセオドア様は、ご自身の子のような、孫のような存在だったのです。
サロメ様、旦那様はあなたが幸せになることを願っています。それこそが旦那様の遺言。私共はそのために、今日まで貴方にお仕えしてきたのですから」

「――――そんな……」


 そんなこと、ちっとも知らなかった。

 義母や妹が夫とわたしを結婚させたのは、お金のためもあったけど、わたしを虐げたいがために他ならない。
 年の離れた男との結婚。幸せになれる筈がないと踏んでいたのだろう。
 もしも夫がわたしとの結婚を断っていたら、わたしは他の、もっと質の悪い男性の元に嫁がされていたに違いない。

 だけど、一度嫁ぎ、実家を離れた今なら、二人の干渉を最小限に喰いとめることが出来る。あの二人にセオドアとの結婚を止めさせるような権限はない。

 夫とセオドア。
 二人の優しさと愛情に、わたしは今日まで守られてきたのだろう。


「それなのに、サロメが『婚活する』なんて言い出すから、色々と予定が狂った。本当はもっとゆっくりと――――俺が爵位を継ぐ日を待とうと思っていたから。だけど、万が一サロメが他の男と結婚が決まったら嫌で、それで……」


 バツの悪そうに呟くセオドアに、唇が震える。


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