※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「だって……だって! わたしは旦那様に渡せるものが何も無かった! それなのに、亡くなって以降も居座って、皆に申し訳なくて! 早くここを出ていかなくちゃと思ってるのに、一人でやっていく自信もなくて!
それに、セオドアとは結婚できないと思っていたから」

「分かっているよ。サロメが俺の将来を大事に思ってくれていたこと。それに、万が一サロメとの関係を君の家族に嗅ぎつけられて邪魔されたくないから、朝まで一緒に居ることも出来なくて。そんな状況で『結婚しよう』って言っても、簡単には信じてもらえないだろうって思っていた。
だからこそ、きちんと外堀を埋めて、サロメが信じられる状況を作ってから、正式にプロポーズをしようと思っていたんだ」


 大きな花束を抱えたわたしの左手を、セオドアは強く握りしめる。
 彼の手には大きな宝石のあしらわれたエンゲージリング。こちらを真っ直ぐに見つめながら、わたしが頷くのを待っている。


「良いの? 本当に?」


 幸せになっても良いの?
 わたしは彼との未来を願っても良いのだろうか?


「尋ねているのは俺だよ、サロメ」


 セオドアはわたしを抱き締めると、耳元で熱っぽく囁く。


「愛している。俺と結婚してほしい」


 今と、未来を表す愛の言葉。涙が溢れ、嗚咽が漏れる。

 こんな幸せ、想像したこともなかった。だけど、もしも許されるというのなら、わたしはそれを――――彼との未来を掴み取りたい。


「わたしも……セオドアのお嫁さんになりたかった。
ううん――――わたし、セオドアと結婚したい! セオドアとずっと、一緒に生きて行きたい」


 ずっとずっと、言えずに呑み込んでいた言葉。セオドアは目を見開き、それから今にも泣きだしそうな表情で笑う。


「もちろん。絶対に、二人で叶えよう」


 力強く微笑まれ、大きく頷く。

 わたし達の関係には過去があり、今があり、未来がある。

 幸せな気持ちを胸に、わたし達は口付けを交わすのだった。


(END)
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