※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「今日はどうしたんですか?こんなところでお会いするなんて、珍しいですね」


 ニコリと微笑みながら、サラが尋ねる。

 彼の暮らす城には、ここに引けを取らない程の蔵書があるはずだ。わざわざ足を運ぶ意味はないように、サラには思える。


「息抜きだよ。城にいるのも疲れるし、ここは広くて快適だしね」


 クラウドはそう答えながら、鬱陶しそうにチラリと後ろを振り返った。

 息抜きと言いつつも、彼の後ろにはがっしりとした体形の護衛が二人、ピタリと付いて回っている。治安の良い国ではあるが、何があるかは分からない。王太子という身分も中々に大変なようだ。


「サラこそ、こんなところで何をしているの?」


 クラウドはサラの髪の毛を一房手に取り、囁くようにして尋ねる。


(きょ、距離が近い……!)


 身を捩るようにしながら、サラは苦笑いを浮かべた。


「探し物がありまして。ここなら何か見つかるのではないかと」


 うまく距離が取れたことに安心しながら、サラは心の中でそっとため息を漏らす。いつもはサラが少しでも拒絶の色を見せれば、それに応じて動いてくれるクラウドなのだが、今日は少しだけ様子が異なる気がした。まるで今から口説こうとしているかのような、そんなモーションだ。


(なんて、自意識過剰よね、きっと)


 心の中でサラはそう結論付ける。クラウドは困ったように笑いながら、小さくため息を吐いた。


「あの、クラウド様」

「うん?」

「最近、アザゼルに会いませんでしたか?」


 折角、アザゼルの唯一の友人と呼べる人物に会えたのだ。手がかりは一つでも多い方が良い。サラはメモを片手にクラウドへ尋ねた。


「最近……いや、学校で会ったのが最後だと思うけど」

「そうですか」


 クラウドの話が本当であれば、彼がアザゼルと会ったのは2~3日前。毎日顔を合わせている家族のラファエラ達があんな様子だったのだから、クラウドが事情を知っているということは無いだろう。


「あいつがどうかした?」

「いっ、いえ~~!何も!ちょっと気になったものですから」


 サラはペコリと頭を下げると、そそくさとその場を後にする。クラウドはしばらくサラのことを見つめていたものの、やがて小さく笑いながら、図書館の入り口の方へ向かうのが見えた。



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