※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
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 それから数日は地獄のようだった。

 噂というものは広がるのが早い。翌日には、サラの両親にもアザゼルから婚約破棄を申し入れられたことが知られてしまった。
 すぐに両家での話し合いが設けられたが、アザゼルの母親は泣き崩れるわ、サラの父親は変わり果てたアザゼルの様子に憤慨するわで大変だった。

 あの日からサラはずっと、アザゼルの両親やラファエラを案じていたが、やはり彼等は未だ現実を受け入れられていないらしい。婚約破棄を主張するアザゼルを必死に宥めてくれていた。

 結局、話し合いが纏まることなかった。途中サラの父親がアザゼルとの婚約破棄を主張した時はどうなることかと思ったが、サラやアザゼルの両親の必死の説得により、何とか婚約の形を保てている。

 けれどその後、サラにとっては不可解なことが起こった。
 あちこちからサラに対して婚約の申し入れが届くようになったのだ。


「サラ、やはりアザゼル君との婚約は破棄しよう!こんなにたくさん婚約の申し入れが届いているし、皆アザゼル君と同じかそれ以上に条件も良い。何もあんな男にこだわる必要はないだろう?」


 父親はこれ見よがしにそう言ったが、サラは頑として首を縦に振らなかった。

 けれど、アザゼルとの関係は、一向に改善しない。毎日付きまとい、話し掛け続けているが、殆ど無視されている。しかも、令嬢の中には今のアザゼルに惹かれるものも多くいて、サラは毎日冷や冷やしていた。


「いい加減諦めたら?」


 アザゼルは呆れたような声音で、そう吐き捨てた。今は休み時間、用もなしに校庭を歩き回るアザゼルをサラは小走りで追いかけている。


「諦めないしっ!」


 運動不足の身体に持久走はキツイ。


(でも)


 アザゼルの体型ならば、歩く速さは今ぐらい――サラが小走りで追いかけるくらいがちょうど良いのだろう。けれど、アザゼルはこれまでずっと、サラに歩調を合わせてくれていた。それが当たり前だと思っていたことにサラは気づく。


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