※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
(本当にアザゼルって優しい人だったのよね……)


 ここ数日感じたこと。

 もしかしたらアザゼルは、婚約者のサラがずっと側にいることで、本当は別に話したい人がいたとしても、そうできなかったのではないか。ずっとずっと自分を押し殺してきたのではないか。そんな風に感じるようになっていた。


(とはいえ、付きまとうのは止めないけど)


 心に矛盾を抱えながら、サラは必死でアザゼルを追いかける。
 するとその時、何かがサラ目掛けて勢いよく飛んできた。


「あっ……!」


 避けようとそう思うのに、身体はうまく動かない。サラは腕で頭を庇いながら思い切り目を瞑った。その途端、バン!という大きな音が周囲に響く。けれどサラの身体に痛みはなかった。


(ど、どうして……)


 目を開けると、目の前にはアザゼルがいた。サラに覆いかぶさるようにして、眉を顰めている。


「アザゼル……」

「怪我はないな?」


 ぶっきら棒にアザゼルが尋ねる。サラは必死にコクコクと頷いた。

 どうやらぶつかったのはボールらしい。硬そうな材質のボールがアザゼルの近くに転がっていた。

 アザゼルはそのままボールを持ってどこかへ行ってしまう。けれどサラは、もうアザゼルを追いかけなかった。

 目頭が熱い。心臓が張り裂けるように痛かった。
 そのままサラの足は、とある場所へと向かっていた。



< 176 / 528 >

この作品をシェア

pagetop