※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
「それに、今は出さずとも、いずれはそうなさるでしょう? わざわざ借金を肩代わりしてまで結婚していただいたんですもの。ちゃんと跡取りは産みませんと」

「…………おまえ」

「わたくしに色気が足りないのは分かっております! ですから、こうして寝台を共にし、アンブラ様の気が昂った時を逃すまいと」

「いや……俺が言いたいのはそういうことじゃない」


 眉間を軽く押さえつつ、アンブラは小さくため息を吐く。


「え? ……ああ! アンブラ様がわたくしを愛してくださらない、ということは存じておりますし、本当にそれで構いません。
ですが、わたくしがあなたを愛してはいけない、とは言われていませんもの。好きにさせていただきますわ」


 柔らかな笑み。けれど、彼女の言葉は力強い。


(馬鹿な)


 普通の人間は、自分を愛してくれない相手のことを愛そうとはしないだろう。人は皆、己が一番可愛い。自分は特別なのだと思わせてくれる相手にこそ寄り付くし、軽んじる相手のことは忌嫌う。関わり合いたいとすら思わない筈だ。

 だというのに、ハルリーはアンブラを愛そうとしているらしい。

 ニコニコと屈託のない笑みを浮かべたハルリーは大層愛らしく、余程の馬鹿男でない限りはコロリと恋に落ちるだろう。腕の中に閉じ込め、愛を囁き、周囲が呆れるほどに甘やかして、幸せにしようと努力するに違いない。


「――――時間は有限だ。無駄にしない方が良い」


 アンブラが徐に立ち上がる。冷たい声音。けれど、ハルリーはニコニコと微笑みながら、彼の後ろに付いて回る。


「はい、一秒たりとも無駄にはしませんわ!」


 縋りつく腕。白く柔らかい肌。アンブラの喉がゴクリと鳴る。


(あり得ない)


 目を瞑り、静かにため息を吐いた。


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