※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
***


 ハルリーが嫁いできて一月。屋敷の中は見違える程、明るくなった。


「奥様、奥様!」


 皆がハルリーを慕い、嬉しそうに声を掛ける。元々は主人であるアンブラ同様、物静かでどこか陰のある従者ばかりだったというのに、今の彼等は別人のように明るく、楽しそうだ。


 淡々と仕事をこなすばかりの侍女も、遊び心のない料理人も、喋っている姿すら見たことのない庭師さえも、ハルリーが居ればニコニコと笑う。彼女を喜ばせるためにあらゆる手段を使い、とても嬉しそうに働いている。


(あいつら、あんな風に笑うんだな)


 そんなこと、ハルリーが来るまで知らなかった。主人としては情けない限りだが、事実だから仕方がない。

 暗い色合いをした重厚な調度類は、明るく華やかなものへと変えられ、屋敷の至る所に柔らかな灯りが灯される。花々の甘い香り。春でも雪の残る寒冷地だというのに、まるで常春のような雰囲気に包まれている。


「アンブラ様、見てください! 皆がわたくしのために用意してくれたのです。すっごく綺麗でしょう?」


 腕一杯に花束を抱え、ハルリーは瞳を輝かせる。淡い色合いの美しい花々。けれど、ハルリーの笑みに勝るものは無かった。ふいと顔を背け、ため息を吐く。

 その途端、使用人たちから容赦なく浴びせられる非難の眼差し。内に秘められた不満の声。アンブラはそれらを静かに受け止める。


(そう、それで良い)


 皆がアンブラのことを責めれば、ハルリーの気持ちにも変化が出るだろう。感情というものは伝染する。周囲に同調するよう出来ているものだ。


< 317 / 528 >

この作品をシェア

pagetop