※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
***


 八十五日目。


 今日は一日お休みだ。


(はぁーーーー、疲れた)


 別に休んでいないわけじゃない。だけど、ここ最近、色んなことに心を揺さぶられ過ぎだと思う。肉体的というよりも、精神的に大分疲れている。


(だって、殿下が……)


 その瞬間、わたしの頬は真っ赤に染まった。
 最近、殿下のことを考えるだけで、心臓がおかしくなる。目の前が真っ白になって、自分に都合よく色んなことを捉えたくなって、すごく困ってしまう。


(ダメだ……ゴロゴロしてたら寧ろ疲れる)


 こういう時は外に出るに限る。そう結論付けて、わたしは部屋を飛び出した。が。


「どうしてホーク様がここに?」

「……それは殿下に聞いてくれ」

(どうしてそこで殿下が出てくるのよ!)


 街に繰り出したわたしの後には、先程からホーク様がピタリとくっついて回っている。


「…………じゃあ、ホーク様も今日、お休みなんですか?」

「いや、絶賛職務中だ」


 さっきの質問ははぐらかしたくせに、今度の質問には淀みなく答える。そんなホーク様に、わたしは唇を尖らせた。
 なんで?って、ホーク様の発言を深読みしそうになって、ブンブン首を横に振る。これでは何のために部屋を飛び出したのか分からない。


(せっかく、殿下のことを忘れようと思っていたのに)


 ホーク様が視界に入れば、嫌でも彼を思い出してしまう。だって、二人はいつも一緒に居るもの。胸の辺りがモヤモヤと疼いた。

 こちらが話し掛けない限り、ホーク様はわたしと関わる気はないらしい。

 それでも、カフェに入るにしても、洋服や化粧品を見るにしても、無表情でついて回られるので、気にはなる。だけど、極力視界に収めないよう気を配った。


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