続・23時のシンデレラ〜甘い意地悪なキスをして〜
私は、ロッカーから私物と鞄を取り出すと、制服のままコートを羽織り、颯の家の住所を告げてタクシーに乗り込んだ。

その瞬間に、一粒また一粒と小さな水滴は、膝に落ちていく。

颯のあんな風に怒る顔を見たのは、勿論初めてだった。

「……ひっく……颯……ふっ……」

思ってもないことばかりを並べ立てて、心は限界だ。  

もう、颯には会えない。

会えば、全てを話してしまいそうだから。颯と二度と離れられなくなってしまうから。

私は、ハンカチを取り出そうとして、ポケットに手を入れた。

(え……あれ……)

もう一度、ポケットに視線を向けて探るが、母が刺繍してくれた、形見のハンカチしか出てこない。 

「嘘……落としたの……?」

何度も探るが、入れたはずの妊娠検査薬はどこにもない。

涙は、もう止まらない。溢れて、溢れて、落ちてを繰り返すだけだ。

私は、もう拭うのも諦めて、ただお腹を両手で触れる。

(颯に、言えなかった……赤ちゃん……)

私は、あの妊娠検査薬をお守り代わりにしたかった。

今は、目に見えなくても、お腹に私と颯の赤ちゃんがいる証だと思えるから。
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