続・23時のシンデレラ〜甘い意地悪なキスをして〜
「颯っ……」

「……なぁ、明日休みだし、俺、23時までに帰るから、起きててくれる?」

少しだけ、甘えたような颯の声に、心臓が音を立てて駆け足になっていく。断る選択肢などハナからない。

自分が帰るまで、起きて待ってて欲しいなんて、そんな小さな我儘を言う颯が、愛おしい。そして、それが何を意味する事かも、勿論理解している。 

「うん……分かった」

「じゃあ、美弥こっち向いて」

振り向けば、颯が屈んで、私の目をじっと見つめた。 

「何?」

「分かれよ、キスしろ」

「え?何て、言ったの……?」

颯が、あからさまに不貞腐れた顔をする。

「俺のこと、夜まで我慢させるお詫びに、美弥から、キスしろって言ってんだけど?」

目の前の王子様は、本当にめちゃくちゃだし、意地悪で我儘だ。でも、そんな王子様にこうやって、拗ねられる事も、意地悪されることも愛おしいと感じてしまう私は、きっと一生、目の前の『23時の王子様』には、敵わないのだろう。

私は、颯の頬を両側から触れると、大きく背伸びをして、キスを落とした。

「颯、好き」

颯の切長の瞳が、僅かに大きくなって、颯が少しだけ頬を染めたように見えた。

「颯?」

「あーっ、もうムカつくな。完全、俺が転がされてんだよなっ」

「転がす?何を?」

首を傾げた私を睨むと、颯が、天井に視線を向ける。

「それ聞く?俺のが惚れてるなって、そんだけっ。行くぞっ」

颯に手を引かれて、扉の外へ出る。背の高い颯の後ろ姿を見上げながら、私は、小さな幸せを噛み締めていた。

手を繋いでいるだけで幸せで、掌から伝わる熱が、心臓まで温めてくれる。

この手を離したくない、もう離せない。
だから強くなりたい。
颯とずっと一緒に居たいから。
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