続・23時のシンデレラ〜甘い意地悪なキスをして〜
自宅マンションの前で、タクシーを降りれば、手元の時計は、美弥との約束の23時、5分前だ。

タクシーを降りて、すぐに見上げた自宅のタワマン最上階は、勿論、灯りが点いている。誰かが自分の帰りを待っていてくれる灯りは、心の芯まで照らす。俺は、早く美弥に会いたくて、歩みを早めた。

「おっと……」

軽くフラついた身体の重心を慌てて戻す。今日の接待で会った松原専務は、俺よりも若かったが、とにかく酒が強くて、俺も飲み過ぎた。


ーーーーん?

エントランスを潜ろうとして、俺は、ふと視線を感じて振り返る。しばらく目を凝らしたが、誰の姿も確認できない。

(気のせいか……飲み過ぎだな)

そのまま、俺は大きな欠伸をしながら、エレベーターに乗り込み、最上階を押す。手元のビジネスバッグには、接待前に初めて入った、ジュエリーショップのカタログと明細書が入っている。女にちゃんとしたプレゼントなんてモノを自分で選んで渡すのは初めてだ。

「美弥、喜ぶかな」

もうすぐ、クリスマスだ。美弥は、遠慮してなのか、俺にクリスマスの予定について、まだ聞いてこない。

聞いてこないくせに、テレビのクリスマスイベント特集に齧り付いて見ていたり、クリスマスのお家デートでの人気手作りレシピの雑誌が、部屋の隅に隠してあったりと、クリスマスを俺と過ごしたい雰囲気が漏れ出ている。

「ほんと、猫だな。とびきり甘えん坊の」

ニヤける口元を取り繕いながら、指紋認証で、玄関扉を開ければ、美弥が、スリッパを鳴らしながら、すぐにミャーと出迎えた。

「颯、おかえりなさい」

「ニャーン……」

「美弥もミャーもただいま」

俺は、美弥の頭を撫でてから、しゃがんで、ミャーの小さな額を撫でる。家に帰って、明かりがついていて、好きな女と可愛い猫が出迎えてくれるだけで、こんなに幸福だと感じるなんて、俺は、本当に変わったなと思う。
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