【短編集】婚約破棄から幸せを掴むまで
「お嬢様……ッ!」

「リリアーナ殿下……!殿下に手を出すなどベルベット皇国を敵に回すのと同じですわ!」


侍女達が声を上げる。
それには騎士団長の息子のトレ、宰相の息子ダンテが慌ててリリアーナの前で腰を折る。

チェリーに恋をしてからは腑抜けてはいるが、基本的にはナシールよりはマシではある。
これがどれだけやばい状況か流石に理解しているのだろう。
いつもは感情を動かさないリリアーナがこれだけのアクションを起こしたのだ。


「もっ、申し訳ありません、リリアーナ殿下」

「謝る事はない!詫びなら眼鏡を打つけたデクランにさせればいい」

「殿下……!」

「チェリーに仇為すゴミだ。煮るなり焼くなり好きにするがいい……!」

「そ、そんな……ッ」


プチン……そんな音と共に何かが切れる音がした。

そっと足元にある眼鏡と毒々しい色の扇子を拾い上げてからバサリと広げる。
侍女達も心配そうに此方を見ている中、一歩また一歩と足を進める。

ナシールの前で足を止める。
そしてにっこりと微笑んだ。


「………許せませんわ」

「だから、そいつは好きにしていいと言っているだろう!?なぁ、チェリー」

「わたしもそう思いますぅ」


不愉快な声を出したチェリーをギロリと睨みつけると、彼女はビクリと肩を揺らした。
リリアーナの中ではどうでも良すぎて視界にも入ったこともない女である。


「ナシール様、わたし怖い……っ」 

「おいッ!チェリーを怖がらせるなッ」


その言葉にパチンと扇子を閉じる。
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