落ちこぼれ白魔術師ですが、潜伏先の幻獣の国で賢者になりました ~絶対に人間だとバレてはいけない、ドキドキスローライフは溺愛付き~
「くそ! あの女、裏切り者だったのか? お、追え! 逃がすな」
 後ろから、兵士が追いかけてくる。
 その声を聞きながら、大きな岩の裏手まで走ると身を潜めた。出来るだけ早く、子どもの治療をしてあげたい。たぶんこのくらいの傷なら、私でも治療にそんなに時間はかからないはずだ。
「痛む? ごめんね。すぐに治してあげるからね」
「……え? 人間でしょ? 敵なのにあたしを助けてくれるの?」
 ウサ耳の子どもは目を丸くした。近くで見ると子どもは五歳くらいの少女で、目が鮮やかな赤色だ。
「敵や味方なんて関係ない。怪我をしていれば助けるわ」
 そう言うと、少女は安心したようにほっと息を吐き、耳をぴょこぴょこ前後に揺らした。警戒を解いてくれたのかしら? じゃあ、私の疑問に答えてくれるかも。
「あなたは……幻獣?」
「ううん、違うよ。獣人ウェアラビット!」
「ウェアラビット? 幻獣の国にはいろんな種族がいるの?」
「そうよ……あっ、いけないっ!」
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