裏側の恋人たち
佐野くんと美原さんのおかげで午前中は平和だった。
うん、午前中はね。

美原さんと佐野くんの二人はメディア対応で来ていたから当たり前なんだけど、午後からはホテルを離れメディアの方々のチーム取材に同行してしまった。

ーーー気まずい。
なぜかちょっと福岡先生の雰囲気が違う。
クマさんだったはずなのに。
ヒグマ系じゃなく蜂蜜を喜びそうな感じの。


「佐野くんとずいぶん仲良くなったんだね」

「・・・ええ」

「浜さんのあんな砕けた口調、初めて聞いたよ。病棟で二ノ宮さんたち相手にもそんな感じじゃないよね」

なぜかわからないけど、福岡先生に追及されている。
なぜだーーー

普段は仕事とプライベートを分けているからと言いたいけれど、それを言うとじゃあさっきのは何だと言われるだろうし・・・・・・。

いつものが作り物のわたしかといえばそういうわけではない。
でも、佐野くんに対して砕けた口調になってしまったのは事実だから今更ごまかせもしない。

「で、どうして?昨日はそんなに盛り上がったってこと?」

んー、福岡先生の目が笑ってないような気がする。

なぜだーーー
どうしてだーーー
あなたも昨日は曽根田さんと楽しくやっていたはずだ。
そんなにわたしの言葉遣いが悪くて気に障ったんだろうか。

笑ってごまかす雰囲気でもなく、沈黙が流れる。

「えーっと。・・・・・・病棟の私ってどんななんでしょう。先生が思ってる私ってどんなですか。まさか、患者さんにも後輩にも厳しくて気高い白衣の天使とか?そんなことないですよね、ふふふ」

まあこのくらい言ってもいいよね。
ちょっと低い声にはなってしまったけど。

毎日のように曽根田さんのアピールの場に同席させられ、謂われのない焼きもちで睨まれ今日もイチャイチャを見せつけられ・・・・・・一方わたしは今日ちょっと仕事中に佐野くんと砕けた会話をしただけじゃあないか。

理不尽だ。
非常に理不尽だ。

「いや、その、気分を悪くさせてしまったのなら申し訳なかった。その、そう言うんじゃなくて」

途端に福岡先生がふにゃりと眉毛を下げて態度を軟化させた。
けれど、私はおもしろくない。

「先生と一緒で昨日は私も非常に楽しかったです。一緒に行ったメンバーとは《《とても》》親しくなれましたし」

にっこり笑顔でそう言って立ち上がった。

「今日東京の本部からこちら宛てに荷物が届くことになっていますので、フロントに確認してきます」

「あ、浜さん、ちょっと待って」
そう言って立ち上がった福岡先生が自分のデスクに置いていた袋を私に押しつけるようにして渡してきた。

「ここに検査会社からの結果メールが届くまでにはまだ30分はあるはずだし、フロントに行くついでに休憩してきていいよ。今日は暇だしここの留守番は僕がしておくから」

休憩ですか。いいのかしら。
「これは?」

「浜さん、こういうのが好きそうだと思って。よかったらおやつにして」

袋の中をチラリと覗くと小さな栗まんじゅうが2つ入っていた。
おおー、栗だ。
もちろん好き。

「ありがとうございます。じゃあ行ってきます」

「うん。行ってらっしゃい」

栗まんじゅうを見て頬を緩めたわたしに福岡先生もホッとしたように笑顔を見せた。
なんかトゲトゲしちゃってスミマセン。

栗に絆されたわけじゃないよ、たぶん。

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