裏側の恋人たち





メディア対応のために総本山から来てもらった千秋さんの部屋はわたしの部屋より一回り大きめなデラックスツインだった。

確か福岡先生はじめドクターに割り当てられているのもデラックスツインだったはず。
この辺に待遇差が出るんだわ。

僻地に近い田舎のビジネスホテルのデラックスツインなんてお世辞にもデラックスではないけれど、佐野くんあたりの若い子が泊まっているシングルルームよりはずっと広い。

私の部屋はリーダーだからなのかツインだ。
私の部屋との差は、部屋の広さと応接セットの椅子の数。
デラックスには2脚、私の部屋は1脚。

でも実はもしかしたらマットレスとかも違うのかも。
この1人掛けソファーの質も違うし・・・・・・。

千秋さんに断りを入れてマットレスをぐいぐいと押して感触を確かめていると笑われた。

「ふみかさんって仕事中の印象と違うよね。そう言われない?」

「それね、たまに言われる。でも仕事中も自分を作ってるわけじゃないの。どっちも素なんだけど。仕事は仕事って割り切ってるせいか他人からは二面性があるって思われることがある」

「私にはその落差がたまらなくかわいく見えるんだけど旦那さん?とかパートーナーの男性は心配しない?」

「あー、元彼は仕事中に出会って付き合った人だったから、気を抜いたときの私に『マリア感がなくて引くわ』って言われた」

「なに?マリア感?」

「病院で働いている時の私が聖母マリアのイメージに重なったんだそうなの。ふざけないでって感じ。白衣の天使って言葉だって24時間天使じゃなくて白衣着たときだけ天使でよくない?って思うんだけど。24時間一生涯慈愛と自己犠牲と献身求められても困るわ。私もただの女だから、欲もあれば自分の安らぎも欲しいもの」

千秋さんがぷぷっと笑った。

「元カレってそんな当たり前のことがわからない男だったのね。それは別れて正解よ」

「そうよね。でも、元カレに限ったことじゃなくて患者さんやそのご家族にもそう思われてる節があって。お見合い話を持ち込まれても困るのよ。みんな介護目的で声を掛けてきてるんじゃないかって疑心暗鬼になってるから全部お断り」

「みんな聖母マリアのイメージで声を掛けてきてるんじゃないかって?」

「まあほぼ全部だと思うよ。だから私は絶対にそこから出会いは求めないの。仕事絡みの出会いから交際はしないって決めてる。かといって酒場で出会った人と勢いでどうこうってこともお断りなんだけど。で、結局いま1人なの」

「なんだか、言いたいことはわかったような気がする。でも私はどっちのふみかさんも好きよ」

「ありがとう。わたしも格好いい千秋さんが好き」

缶チューハイで乾杯した後、千秋さんが飲めるクチだと判明したので自室から持ってきた日本酒の小瓶のお酒を半分こした。

「実はね、私ふみかさんのこと噂で聞いて知っていたの。”二ノ宮グループいちお嫁さんにしたいナース”って肩書きが自分にあるの知らないでしょ」

ふふふと笑う千秋さんに開いた口が塞がらない。

”二ノ宮グループいちお嫁さんにしたいナース”ってなにそれ。

「お見合いの仲介をして欲しいって話はふたば台病院の院長のところにだけじゃなくて本部の方にも持ち込まれることがあるのよね。だから理事長ももちろんご存知よ」

直接言われればそのままお断りしているけれど、科長や病院長、事務長にはどんな相手でも絶対に受けることはないから私に声を掛けないでそのまま断わってくれるよう切にお願いしてある。まさか本部の方に話を持って行く人がいるとは知らなかった・・・・・・。
私のところにまで話が下りてこないのは院長の判断なのだろう。
ありがたや。


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