裏側の恋人たち

木曜日、
チームの人たちと夕食をとった後、ひとり本部のパソコンを立ち上げる。

福岡先生と松江さんに任せてばかりというわけにはいかないので、あれからこうして時間外に出来ることをしていた。

明日は午前中はCチームと訪問診療に出て午後は本部に戻り撤収作業と報告書の作成をしなければいけない。
訪問診療の山間部からここまでの移動時間を考えると、絶対に時間が足りないと思うんだ。


コンコンーー

ノックの音に身体がビクリと反応する。
こんな時間に誰だろう。
この時間帯、福岡先生と松江さんは夕食を食べているはずだし、他のメンバーは自由時間だ。

昼間本部を使うときはドアを開放しているのだけれど、夜だし時間外だしってことでドアは閉めていた。

「どなたですか?」

ドアに近付きながら声を掛ける。

「僕です。福岡です。中にいるのは浜さんですよね」

「先生?どうしたんですか、今は夕食の時間じゃ・・・」

ドアを開けると、福岡先生が立っていた。

「君ってひとはーーーCチームに合流して欲しいと言いましたけど、時間外に働けとは言ってないですよ。一人で働き過ぎでしょう」

福岡先生は呆れたようなそれでいてちょっとさみしそうな顔をして室内に入ってきた。
先生は鍵を持っているのだからそのまま入ってくることも出来たのに、そうしないでノックをしてくれた。これも福岡先生っぽい。

私の開いていたパソコン画面と隣に置かれたレジュメをじっと見つめると、大きなため息をついた。

「昨日、おかしいと思ったんです。松江さんが指示した以上のことをしてくれて。仕事が出来ないひとだとは思っていなかったんですが、期待していた二歩くらい先のことまでしてくれるからーーー。今日確信しました。やっぱりこうして浜さんが前夜のうちに仕事をしたり彼女にメモを残しやるべきことの指示をしてくれていたんですね」

私がしたのはちょっとしたパソコン作業と指示書に付箋を貼ったり、レジュメにメモ書きをした程度。
松江さんがいるとはいえ私と二人でやっていた作業を福岡先生が1人でやるのはどう考えても無理だと思ったのだ。

黙っていると福岡先生がどすりと音を立ててちょっと乱暴にソファーに座った。

「ねえ、浜さんもそこに座って。僕が立たせて叱っているみたいだから」

・・・・・・まさにその通りだと思うのですが。
初めて見る不機嫌な様子の福岡先生に戸惑いつつ向かいのソファーに腰を下ろした。

「僕はそんなに頼りにならないですか」

「いいえ、滅相もございません。私が現場に出たら先生が1人で大変になるじゃないですか。それがわかっているのに何もしないのはちょっと・・・・・・」

「で、時間外に1人でここで働いていたと」

まあそういうことなんですけど。
無言で先生の視線を受け止めると先生はまた口を開いた。

「この時間に働いていた意味を聞いてもいいかな。Cチームが現地からホテルに戻ってきたのは夕方早い時間だったのに、君はこんな時間に1人でここにいる。ーーー僕のことを避けてるとしか思えないんだけど」

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