裏側の恋人たち



「姐さん、あんまり飲んでないんじゃないんですか?」

「乾杯ドリンクは飲んだわよ」

「お好みの酒がなかったんですか?向こうに焼酎やワインもありますけど」

佐野くんが一升瓶片手にわたしの元にやってきた。

「二ノ宮理事長って太っ腹ですよね、理事長のポケットマネーでぽんと出してくれるんだから。俺も理事長目指そうかな」

「本当に太っ腹よね。飲める人はただ酒、飲めない人はスイーツって。わたしはどっちもいけるからラッキーだけど」

提供される料理も美味しいし。
フリードリンク、スイーツバイキングがこんな田舎のビジネスホテルで味わえるとは。
2週間の苦労を慰労ーーーこれぞ本当の慰労会だ。

「で、なんでアルコール控えてるんですか?」

「・・・・・・仕事が終わらなかったの」

「え?」

「わたしの分の報告書が、まだまとまってないのよ。でも乾杯の席にリーダーがいないのはまずいでしょ。だから途中で切り上げてこっちに来たんだけど、もう誰がいなくてもわからないだろうからそろそろ本部に戻るわ」

みんなわいわいと楽しそうに飲み食いしていて自由に席を離れている。

「報告書なんて後日でよくないですか?」

「それが、紙の資料は明日の朝一番で業者に本部に送付されちゃうし、パソコンのデータ類は明日以降はパスワードロックがかかって開けなくなっちゃうから今日中にやっておかないといけないのよ」

「なんでもっと早く・・・ああ松江さんの代わりに現場に出ていたせいですか」

「それを言っても仕方ないの。わたしの仕事が遅かったからよ」

「福岡先生はーー」

「先生も終わってないの。さっき本部に戻ったわ」

うわぁっと佐野くんが顔をしかめた。

「先生はちゃんと食ったんですか?」

「乾杯の挨拶したら手早く食べて出て行ったわよ。わたしより進んでないらしいしの。それと、わたしが仕事が終わってないのに飲酒したことは内緒にしてね」

「なんだ、今夜は一緒に飲めると思ったのに。仕事なんかほっとけって言えないのが残念です」

「わたしも残念だよ。ただ酒なんだから佐野くんは楽しんで。あの日本酒とかちょっと甘口で美味しいよ。早く終わったら戻ってこれるかもしれないから頑張ってくるわ」

終わりの挨拶はないとはじめに言ってあるから自由解散と決まっている。
今日ばかりは12時まで食堂の使用許可がある。
リーダーが二人抜けた後で何かあるといけないので、小杉さんに頼んでおいた。斉田さんにも声を掛けてある。二人に任せておけば大丈夫だ。

ああー、本当に残念。
あの白ワインもあっちの焼酎も味見してみたかった。

後ろ髪を引かれる思いで食堂を出た。


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