裏側の恋人たち

本部に戻ると福岡先生が1人でパソコンに向かっていた。

「お疲れさまです」

福岡先生のデスクにはウーロン茶を、自分のデスクにはミネラルウォーターのペットボトルを置いてパソコンを立ち上げた。

「ありがとう。浜さんはあとどれくらい?」

「そうですねーーー30分っていいたいところですけど、45分くらいでしょうか。先生は?」

「僕も同じくらいかな」

「かなり進みましたね。なら二人揃って打ち上げ会場に戻れそうですね。頑張りましょ」

「打ち上げかーーああ、そうだね、うん。頑張ろう」

何か言いかけた気がしたけれど、そのまま福岡先生の視線がパソコン画面に移ったからわたしも作業を再開した。

夜の作業なので部屋のドアは開けてある。
男女が同じ部屋で閉じこもって作業することであらぬ誤解をされると困るからだ。

大きく開いたドアの向こうから階下の食堂の喧噪が遠く聞こえてくる。
事前に斉田さんや五谷くんから打ち上げで何かやりたいと相談された福岡先生が上層部に掛け合いビンゴゲームをすることになったと聞いていた。
仕事とはいえ、若い人の集まりだし楽しく終わって帰れそうだ。

こっちの室内はパソコンのキーボードを叩く音と、時折聞こえる紙をめくる音。

戻ってお酒を飲みたい気持ちはあるけれど、こっちはこっちで心地いい。

元々、曽根田さんの存在がなければ福岡先生との仕事は苦痛じゃなかったし、むしろやりやすかった。

ーーー何だか数日間損をした気がするわ。
心の中でため息をついた。


ふう。
パソコンを打つ手を止めた先生が大きくため息をついた。

「お疲れですよね。コーヒーでも淹れましょうか?」

こちらも手を止めて先生の顔を見る。

「いや、疲れてるのは浜さんもだよね。君なんて午前中は現場に出て午後からここの作業でしょ」

「ええ。でも訪問先は元気なおばあちゃまだったし、お茶を頂いて世間話をしてきただけですから」

「すごいよね、浜さんって。どんなことも何でもないような顔をしてさらっとやってのける。どうなってるの」

「何かとても大きな誤解をされている気がするんですが」
どうなっているかと聞かれても何も特別なことはしていない。

「先生ってわたしのことを過大評価してません?わたしは聖母でもなければ天使でもないですよ?ただの大酒飲みのナースなんですけど」

「大酒飲みね」クスリと先生が笑った。

「今夜はその姿を見られると思ったんだけど、まさか二人で残業とは」

「ホントですよ。報告書はもうちょっとで終われそうですけど、片付けもまだありますしね」

「そうだね・・・」

「片付けが終わればあっちに戻れるかしら。でもお酒もデザートもなくなってたら戻っても仕方ないし・・・・・・」

「あははは。浜さんってブレないんだね。基準はアルコールとスイーツかい?」

ええーっと。
そんなふうに考えたことはなかったけど。

「どうしたら浜さんの気持ちをこっちに向けられるのかな」

「・・・?」

「僕が当直の度に浜さんの病棟にだけ差し入れをしていた事も今回整形の木澤先生でなく僕が来たことも、全部浜さんに取り入る為だったんだけど、スイーツにはつられるけど、僕には全然で心が折れそうだったよ」

んんんんん???

「まさか、木澤先生から福岡先生に代わったのって?」

「僕が木澤先生に頼んだんだ。派遣ナースが増本主任から浜さんに代わったって聞いて」

にっこりと微笑まれて胸がドキリとする。

「もうちょっと気にしてくれるかなと思ったんだけどね」

え、えーっと。
これってそういうことなんだろうか。
えーっと・・・・・・。

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