裏側の恋人たち
「浜さん、目が泳いでるよ」
福岡先生の目は笑っている。

「昨日も言ったけどね、仕事中にどうこうって浜さんは嫌がるだろうからいまは仕事優先にするけど、東京に戻ったら僕もいろいろ努力するつもりだから覚悟してね」

いろいろと努力とはーーーー?
喉がゴクリと鳴ってしまった。
か、覚悟って何~?

先生の言葉に硬直していると部屋の外から足音がして開かれていたドアがノックされる。

「失礼しまぁ~す。先生、姐さんお疲れさまです。そろそろ終われませんか。差し入れ持ってきたんですけど」

「え?差し入れってーーー」ノックと同時にずかずかと部屋に入ってきたのは佐野くんだった。

「すごい荷物ね」

「さっさと終わってくださいよ。酒も食べ物もなくなっちゃうからホテルの人に頼んでパックに詰めてもらってきたんですよ。で、酒も持ってきましたからここで俺と打ち上げしましょう」

彼が持ってきた段ボール箱の中を覗き込むと、たくさんのお料理のパックとスイーツのパック。ワインボトルに日本酒の小瓶、紙皿に紙コップも。

佐野くん・・・・・・
「君は本当にいい子ね」
よしよしと頭を撫でようと手を上げたらその手を福岡先生に掴まれた。

「気軽に男に触れちゃダメだよ」

あ、はい・・・・・・。

「もしかしてそういう?え、俺、邪魔ですか?ーーいや、それでも譲りませんよ。今夜は友達になった先生と姐さんと一緒に飲むって決めてたんですから」

佐野くんはわたしと福岡先生を交互に指さす。

「二人とも報告書、終わりました?まだならちゃちゃっとやってください。俺、食堂にもう一往復してきますからそれまでに終わらせといてくださいね。荷造りは手伝います」

それだけ言ってスタスタ出て行く佐野くんの背中を見送り二人で苦笑する。

「かわいい友達が来たし、頑張りますか」
「はい、そうですね」


佐野くんのおかげで考えていたものより半分の時間で終わらせることが出来た。



宣言通り佐野くんが手早くパソコンやプリンターを段ボールに入れ、すぐに明日の搬出が出来るようにしてくれた。

「早いし慣れてるわね」
感心していると
「事務職だし、俺僻地出張4回目なんで慣れてるんですよ」
と佐野くんが今頃になって知らない情報を出してきた。

「4回目?」

「そうですよ。俺って実は将来有望株なんです。下積みとして今は福祉施設とか老健回ってて、来年からはふたば台病院に行きます。その2年後には二ノ宮総合病院に行きます。将来はふたば台か二ノ宮総合の事務長を目指すか、もしくは本部の上層部を目指すか、決めかねてるとこです」

「え、佐野くんってもしかしてエリート?」

わたしがそう言うと佐野くんがニヤニヤした。

「そうなんです。見えませんでした?」

「で、そんな君がなぜ僻地に4回も?」

福岡先生がそう言ってわたしも頷いた。
そうだよ、基本一人1回行けばいいって決まりでしょ。事務職は違うの?

「事務職も医療職と同様一人1回です。でも、他の施設のスタッフと交流を持ったり医療職の人たちと繋がりを作った方がいいってことで上層部からの指示で俺みたいなのは複数回出張に出されるんですよ。人脈って大事でしょ」

へえー。
そんなこと全然知らなかった。




< 112 / 136 >

この作品をシェア

pagetop