Cherry Blossoms〜潜入捜査官と天才医師〜

「い、いえ。患者さんが無事に手術できてよかったです……」

胸の鼓動がやけにうるさい。桜士は戸惑いながらも頭を下げる。女性は救急隊と共にストレッチャーに患者を寝かせ、そのまま救急車の中へと入って行った。

「榎本総合病院に搬送、お願いします」

女性がそう言い、救急車はサイレンを鳴らして走っていく。その姿を見届けた後、桜士は大きく息を吐いた。それと同時に呟く。

「素晴らしい腕前だったな……。さすが、最年少の天才医師……！」

先ほど手術をした女性は、榎本総合病院に非常勤で救急救命医として働いていることを桜士は彼女を目にした瞬間から知っていた。もちろん、彼女の名前も知っている。

「四月一日一花（わたぬきいちか）」

その名前を呟いた時、頬が微かに赤く染まったことなど桜士は知らなかった。



潜入捜査をする榎本総合病院に到着すると、院長に出迎えられた。

「遅れてすみません。交通事故が起きてしまって、怪我人の処置をしていました」

「話は聞いていますよ。案内しますので、ついて来てください」