Cherry Blossoms〜潜入捜査官と天才医師〜

「アドレナリンの準備をお願いします！」

女性はそう言い、胸骨圧迫を始める。女性の着ているブルーのボーダーニットや黒のロングスカートに血が飛び散る。だが、彼女は顔色一つ変えることなく胸骨圧迫を続けていた。その真剣な横顔に、桜士の胸がドクンと動く。

（綺麗な人だ……）

自然とそう思ってしまったことに桜士は自分に驚いてしまう。何故、このような状況下で考えてしまったのだろうか。いつもの自分からは決して出てこない言葉に、戸惑ってしまう。

（一体どうしたんだ俺は……。潜入捜査初日なんだぞ）

「アドレナリン投与します。AEDもセットしますね」

「お願いします！」

表情は崩さず、桜士はアドレナリンを投与し、AEDをセットする。そして心拍は何とか戻り、手術を再開することができた。

「……よし、これで一安心ですね」

脳内に溜まっていた血液を取り出し、細いチューブを入れ終わり、手術は無事に終わった。女性がフウッと息を吐いたその時、救急車が到着した。

「手術、手伝っていただいてありがとうございました。もしも先生がいなかったら、心停止した時にどうなっていたか……。ありがとうございます」

女性がニコリと笑い、頭を下げる。その笑顔はまるで花が咲いたようだった。刹那、桜士の心に温かいものが流れていく。