Cherry Blossoms〜潜入捜査官と天才医師〜

しばらくすると、看護師が震える声で「先生！」と声をかけた。

「もう、心肺蘇生を始めて一時間経過しています……」

その言葉に二人は胸骨圧迫をやめる。もう一時間も経っていたのだ。モニターの心電図は波打つことがないまま、凪いでいる。これが何を意味しているのか、嫌でも現実を突き付けられた。

女性の医師が、手首につけられた薄いピンクの可愛らしい腕時計に目を向ける。そして、淡々と告げられた。

「午前三時二十五分、ご臨終です」

春男の死亡診断がされると、看護師が春男の家族に電話をかけ、エンゼルケアがされていく。

「春男さん、家族さんが来る前に体を綺麗にしましょうね」

体を拭かれ、病衣から綺麗な浴衣に着替えさせられ、ヒゲを剃り、化粧を施されていく。その様子を見ながら、黒人の男性医師が言った。

「患者さんの急変、今月でもう三回目だよね」

女性の医師は何も返すことなく、ただ唇を噛み締めながら白衣を握り締める。そんな二人の様子を、看護助手は体を震わせながら見守っていた。