Cherry Blossoms〜潜入捜査官と天才医師〜



午前七時、1LDKのベッドの上、目覚ましが鳴る前に九条桜士(くじょうおうし)三十二歳は目を覚ます。ベッドから起き上がると埃がふわりと舞い、少し咳き込んでしまう。

「……久しぶりに帰ったからな」

職場で寝泊まりすることが珍しくなく、このマンションの一室に帰って来るのは約一ヶ月ぶりだった。深夜に帰ってきたため、掃除機をかけることもできず、そのままベッドに倒れ込んでしまった記憶がある。

「今日、もしも帰って来られるなら掃除をしないとな」

部屋の隅に溜まってしまった埃を見て言い、桜士はグレーのスーツに着替える。今日も仕事だ。

鏡を見ると、自分でも驚いてしまうほど冷ややかな目と無表情な顔がそこにある。ダークブラウンの七三オールバックの髪に、陶器のような白い綺麗な肌、パッチリとした二重、華やかな顔立ちと言われる顔だ。ここに笑顔があれば、多くの人から注目を浴びるだろう。だが、桜士の仕事は注目を浴びてはならないのだ。
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