Cherry Blossoms〜潜入捜査官と天才医師〜
桜士が潜入捜査をすることが確定してから数日後、偽名で書かれた免許証や医師資格書が届いた。
「本田凌(ほんだりょう)、これが俺の偽名か……」
性格は優しく親切、どんな患者にも笑顔で対応し、一人ひとりの訴えに真剣に耳を傾けるーーー医師の鏡のような人物だ。だが、潜入捜査を何度も経験したことのある桜士には簡単に演じることができる。
榎本総合病院に勤務している医師、そして急変して亡くなった患者たちの情報を十に調べてもらい、頭に叩き込む。
「……よし!」
白のロング丈カットソーの上にテラコッタのミラノリブニットを着て、黒のスキニーパンツを履く。その上にチェスターコートを羽織り、鏡の前に立った。公安警察としてのスイッチが入るスーツの時とは違い、その顔には自然と優しげな笑みが浮かんでいる。きちんと、演じれている証拠だ。
「潜入初日、頑張りますよ!」
優しい口調で言い、キャンバスシューズを履いて外に出る。冬の冷たい風が頰を撫でていった。