Cherry Blossoms〜潜入捜査官と天才医師〜

車に乗り込み、警視庁とは反対方向にある榎本総合病院へと車を走らせる。時刻は八時半。多くの人の出勤時間なのだろう。道はスーツを着た人が行き交い、道路を走る車も多い。

その時、桜士が運転する車の横を猛スピードで白の軽ワゴン車が走って行く。桜士が鋭い目で横を確認すると、運転席のハンドルに六十代と見られる女性がうつ伏せになっているのが一瞬見えた。

「ッ！何かの発作を起こして意識がないのか！！」

桜士がそう呟いた刹那、女性の乗った車はふらつき、そのまま電柱へと激突する。慌てて桜士は車を道路脇に停め、女性の元へと駆け寄った。

「大丈夫ですか！？」

窓ガラスを叩くも、女性はピクリとも動かない。電柱にぶつかった衝撃で、女性は頭から血を流していた。一刻を争う緊迫した状況である。

「車から降ろさないと！」

車はエンジンがかかったままだ。もしも、ガソリンが引火してしまえば女性は大火傷を負うどころでは済まない。桜士は車のドアに手をかける。だが、電柱にぶつかった衝撃でロックがかかってしまったのか、ドアが開かない。

「ッ！」

ドアが開かない、それならどうするのか？答えは一つだ。窓ガラスを割って女性を助け出すしかない。だが今、窓ガラスを割れるようなものは周りには何もない。