離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます~旦那様は政略妻への恋情を止められない~
「そんなの気にしなくていいから。身体が冷えるから早く乗って」

 彼女は緊張の面持ちで窓の外を眺めたりしている。

「酔いやすいほうだったりするか? なにかあれば遠慮なく声をかけて」
「いえ、大丈夫です。慶一郎おじさん以外の人の車に乗ることがほとんどないので少し緊張してしまって」

 たしかに彼女の世代で都内在住なら車は所有していないほうが多数派だろう。けれど、自分のなかにちょっとした優越感が湧くのを俺は感じていた。彼女がほかの男の車に乗っていない事実がうれしくて仕方ない。
 グレンチェックのウールマフラーに顎をうずめた彼女の横顔をチラリと見て思う。

(これからも俺以外の男の車には乗るな。そう言ったら君はどんな顔をするだろう?)

 もちろん恋愛結婚のカップルと同じようにはいかないが彼女もこの結婚を前向きに受け入れてくれているように見えた。政略結婚でもこれから愛を育んでいけばいいと俺は楽観的、いや……自分に都合のいいように考えていた。
 
 だから園部の言葉は頭から冷水を浴びせられたように感じた。

『あいつにとって叔父さんは恩人だから……絶対に断れない縁談なんですよ』

 冷静に考えればそのとおりなのだ。俺は彼女との結婚に浮かれて不都合な真実から目を背けてしまっていたのだろう。

(――浜名が結婚を受け入れたのは恩人である慶一郎さんのため)
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