偽りのはずが執着系女装ワンコに娶られました

 だというのに、口づけが深まっていくにつれ、恋は何とも形容し難い切なさに襲われてしまう。

 これから先、秀と偽りの関係を築いていく中で、この想いがどんどん膨らんでいくのだとしたら、こんなにも辛いことはない。

 想像しただけで、苦しくて苦しくてどうしようもない。

 そんな心情が呼び起こしたのかもしれない。

 忘れかけていた黒い影が忍び寄ってくる。瞬く間に大きな翳りとなって何もかもを覆い尽くしていくーーあの忌々しい感覚が彼女の脳裏を掠めた。

 深まりつつあるキスの狭間で恋の身体が無意識に強張っていく。

 この前の二の舞になるかと思われたが、そうはならなかった。

 なぜなら慌てふためいた様子の秀が口づけを中断したからだ。

 ーーへ!?

 思いがけない展開に恋がキョトンとしていると、秀が気遣わしげな表情で恋の顔を覗き込んでくる。かと思えば。

「恋ちゃん、怖がらせてごめんね。大丈夫?」

 カレン仕様のお姉口調で優しく問い掛けてくる。

 これでは、絶世の美女ならぬイケメンが台無しだ。

 秀のあまりの慌てようと変わり身の早さに、見た目のギャップとが相まって、恋は思わずぷっと笑みを零していた。

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