ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜

第4話 11月7日


 翌朝、小春は事の顛末(てんまつ)を話した。

 ────壁際まで追い詰められ、絶望の淵で最悪を覚悟した。

 けれど、ステッキがかざされた瞬間、目の前から瑠奈が忽然(こつぜん)と姿を消したのだ。
 唐突で、そして一瞬の出来事だった。

「確かに怖ぇ能力だな。……けど“消える”って、どういうことなんだ?」

 存在そのものが抹消(まっしょう)されるのか、肉体が消滅するのか、いずれにせよ強力すぎるほどの異能だ。

「瑠奈もわたしたちと同じ魔術師なんだよね……? ステッキって何なの?」

「よく分かんねぇけど、発動にそういうのが必要な異能があるとかじゃねぇか?」

 本人が消えてしまったため、真相は不明だ。
 小春は眉を下げ、ぽつりと呟く。

「瑠奈、生きてるかな……」

 蓮はどこまでもお人好しな彼女を一瞥(いちべつ)した。

 自分を害そうとした相手のことなんて、なぜ案じられるのだろう。
 友だちだったとはいえ、自分を裏切った相手なのに。

「生きてたら、また狙われることになる。小春が本当は魔術師だってバレるのも時間の問題だろうしな。他人の、それも()の心配してる場合じゃねぇよ」

 あえて厳しく言った。
 情けをかけてばかを見るのは、いつだって善意を持ち合わせた優しい人間なのだ。

 小春は押し黙る。
 ああして“刃”を向けられてもなお、敵というには抵抗を感じた。

 瑠奈だって、生きたいだけなのだろう。
 こんなゲームに巻き込まれさえしなければ、手を汚す必要もなかったはずだ。

 そんな小春の心情など露ほども知らない蓮は「とにかくさ」と話を切り替えた。

「瑠奈を消した魔術師、見つけたいとこだな。小春を助けてくれたってことだろ? もしかしたら、味方になってくれるかも」



 教室に着くなり驚愕した。
 消えたはずの瑠奈がいたのだ。

 小春を見つけると、憤然(ふんぜん)と歩み寄ってきた。

「来て」

「え……っ」


 返事を待たず、手首を掴んで引っ張っていく。
 あまりの力に振りほどくことすらできず、連れられるがまま歩いた。

「おい、待て!」



 屋上まで上がると、瑠奈はやっと足を止めた。
 眉をひそめ、憤慨(ふんがい)しながら小春を睨みつける。

「小春ちゃん、魔術師じゃないんじゃないの!? あたしを騙したんだね」

「え……?」

「昨日、あたしに何をしたの?」
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