ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜
     ◇



「あれ……?」

 蓮が教室に戻ったとき、そこには誰もいなかった。
 戸惑いながらもきょろきょろと周囲を見回す。

「小春?」

 どこにも彼女の姿はなく、机の上にあったはずの鞄も消えていた。

 待ちくたびれて先に帰ってしまったのだろうか。
 確かに、連れ出されてから30分くらいは経ってしまっていた。

 蓮はスマホを取り出してみる。

【ごめん! 瑠奈と先に帰るね、また明日!】

 気づかなかったが、そんなメッセージが届いていた。

 不安が込み上げてくる。ひとりきりも危険だが、ふたりきりも危険だ。
 無論、瑠奈が魔術師でなければ安全なのだが。

 無事を確かめるべく電話をかけようとすると、唐突に一件のメッセージが届いた。瑠奈からだ。

【大事な小春ちゃんを助けたかったら、ひとりで河川敷に来ること!
武器は禁止!
リミットは日が落ちるまで。待ってるからね】

「は……?」

 脅迫めいた文章とともに、両足を石化された状態の小春の写真が添付されていた。

 考えるより先に身体が動き出す。
 素早くリュックを引っ掴み、脇目も振らずに駆け出した。



 日は傾いているが、沈みきってはいない。
 河川敷に下りた蓮はあたりを見渡した。

「小春!」

 木の影、橋の下までくまなく捜したが、誰の姿もない。
 小春もいなければ、瑠奈もいなかった。

 乱れた呼吸を整えるべく、橋の下の壁に背を預ける。肺が焼けるほど熱い。

 そのとき、足元に砕けた石の残骸(ざんがい)が広がっていることに気がつき、急いで身を起こした。
 屈んで破片を拾い上げてみる。

「手、だよな……」

 低木の茂みで目にした彫像と重なる。
 まさか、これは小春の────。

 青ざめた蓮はスマホを取り出し、慌てて小春に電話をかけた。
 頼む、出てくれ。無事でいてくれ。そう必死に祈りながら。

 ふいに、永遠のように感じられた呼び出し音が途切れる。

『もしもし……』

「小春! 平気か。怪我とかしてねぇか!?」

『だ、大丈夫』

 電話口の向こうから聞こえる小春の声は弱々しかったものの、無事であることは確からしい。

 蓮は心底安堵した。この残骸は和泉のもののようだ。

『ごめん。わたし、勝手なことして……』

「いいって、そんなの。それより、いまどこにいるんだよ?」

『いま……家にいる。怖くて、逃げた』

 よほどの思いをしたのか、小春は泣きそうな声で言った。

「よかった。瑠奈からは逃げきれたんだな」

『ち、ちがくて……』

「ちがうって、何だよ。何があった?」

 冷たい風が吹きつけ、河川敷の草がざわめく。
 黒い影のように色を失った木々が、(こずえ)を鳴らした。

『消えちゃったの、瑠奈が────』
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