ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜
小春は慌てたように雪乃に向き直った。
「あ、ごめんね。勝手なことしちゃって……」
「とんでもない。あんなふうに立ち向かってくれた人、水無瀬さんが初めてです」
眉を下げつつも瞳をきらめかせて笑った。
蓮は不満気に眉を寄せる。
「……おまえさ、本当に二面性凄いよな。つか、小春のこと好きすぎだろ」
「は? 向井に言われたくねぇし」
「おい!」
思わぬ反撃を食らってたじろいだ。
告白はすべてが終わってから、と決めているのに余計なことを言わないで欲しい。
幸いにも小春は気づかず「二面性?」と首を傾げている。そっちじゃない。
「……なあ、何でいじめられるって分かってんのに毎日律儀に登校してんの?」
「怨恨の蓄積だ」
その肩についた埃を払ってやりながら尋ねると、雪乃は淡々と答えた。
お陰で殺すことに躊躇もなくなる。
殺しても時間を戻して蘇生しているとはいえ、小春の手前、そこまでは口にできなかった。
残忍で私的な理由であることはよく自覚している。
もっとも、ほとんど復讐のために力を使い、復讐に生きている彼女を、いまさら責めたり咎めたりする資格はないと小春は思っていた。
「今日、決着をつけるんですね。……そしたらおしまいだな、この世界も」
雪乃の呟きは少しだけ寂しげに聞こえた。
「運営側を倒したらどうなるんです?」
「……分からない」
そもそも勝つか負けるか、生きるか死ぬかも分からない。
反逆に怒った運営側が、報復として魔術師全員を狙う可能性もないとは言えない。
「わたしたちのせいで、雪乃ちゃんにも害が及ぶかもしれない。本当にやってみないと、どうなるか分かんない」
眉を下げた小春に、雪乃は頷く。
「大丈夫。もとよりあたしは最後まで生き残るつもりなんてなかった。異能の残量も残りわずかだし、身体もボロボロです。仮に生き残れたとしても、先は長くない」
終焉を受け入れるには、ちょうどいい機会だ。
「……やっぱ一緒に来るか?」
思わず言った蓮に、呆れたように笑う。
「おまえは最後までばかだな。どう考えてもついてく方が危ねぇわ」
「このやろ……。誰がばかだ?」
「でも、自分の知らないところで起きた出来事のせいで巻き添えになって死んじゃったりしたら……やるせなくない?」
かちんと気色ばむ蓮に構わず小春が案ずると、ぱっと雪乃は顔を上げた。
「そんなことないです。水無瀬さんはこうして事前に知らせにきてくれた。前にも言ったけど、あたしは水無瀬さんたちのやろうとしてることは間違ってないと思う」
毅然と言葉を繋ぐ。
「だから、応援って言い方がふさわしいのか分からないけど……成し遂げて欲しい」
少し間を空け、今度は小春が頷いた。
「……ありがとう、雪乃ちゃん」
「おまえな────」
小春との扱いの差に文句を言おうとしたものの、その前に彼女は遮る。
「あたしはあたしのしたいようにするよ、最後に」
長い前髪の隙間から覗いた瞳からは、強い意志が窺えた。
「ありがとう。あのとき、あたしに声かけてくれて。無事を祈ってるからね、水無瀬さん……と、向井も」
意外そうに蓮は顔をもたげる。
小春は心が震えるのが分かった。
思わず一歩踏み出し、そっと雪乃を抱き締める。
「こちらこそ……助けてくれてありがとう。無事でいてね。すべてが終わったらまた会おうよ」
雪乃は答えることなく微笑をたたえ、控えめに抱き締め返した。
荒んだ心が乾ききる前に、この優しい温もりを知れてよかった。