ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜

 不敵に笑い返され、思わず表情を強張らせる。

「え」

「本当に効かないなら、避ける必要なんてないよね? 俺が見た限り、きみはかなり必死に避けてるけど何でかな」

 奏汰が指を鳴らすと、剣山(けんざん)のように地面に連なったつららが霊媒師のもとへ迫る。

 その尖った先端に怯んで飛びのこうとしたものの、身体が動かなかった。硬直魔法だ。

「やば……っ」

 慌てるもなす(すべ)なく、靴を突き破って足の裏から鋭い氷に貫かれる。

「痛ったー……!」

 もう一度指を鳴らすと、顔を歪めた霊媒師目がけてつららが飛んでいく。

 (くい)のように腹部に打ち込まれ、白い服がじわりと赤く染まった。

 やはりというべきか、傷は()えた。
 けれど、先ほどより明らかに時間を要していた。

 やっぱり、と奏汰は呟く。

「効いてるみたいだね?」

「……っ」

 霊媒師の顔が引きつった。

「……あーあ。バレちゃったみたいだし、そろそろ本気出すしかなさそう」

「!」

 構えた指先(銃口) から水弾が連射され、とっさに氷壁でバリアを作り出す。
 めり込んだ部分から煙が上る。

 ふと霊媒師の指先に炎が宿ったかと思うと、今度は炎弾(えんだん)が放たれた。

 ぼうっと瞬く間に氷壁が溶けてしまう。

「さて」

 指先(銃口)が今度は自分に向けられ、奏汰はとっさにもたげた手を握り締めた。

「う!」

「……っ」

 一旦、彼女の動きを止めることはできたものの余裕はなかった。

(苦しい……)

 心臓がもたない。肺が破れそうだ。

 割れるような頭痛に耳鳴りもして、つ、と耳から流れた血が首を伝い落ちていく。

 荒い呼吸を整えようとして、思わず咳き込むと血があふれる。

「ふふ、勝負ありって感じ?」

「う……」

 奏汰はかぶりを振って気を持ち直す。

(……大丈夫。まだやれる)

 長期戦は間違いなくこちらが不利だ。

 どんなに辛く苦しい反動が、あるいは死が待っているとしても、さっさと決着をつけるに越したことはない。

(……やってやる。すぐに決める)

 拳をほどくと、震える手に冷たい息を吹きかける。
 素早く屈んで、てのひらで地面に触れた。

 ぱきぱきと瞬く間に氷が広がっていき、あたり一面が凄まじい冷気を帯びる。

「!」

 這ってきた氷が届く前に地を蹴った霊媒師は、再び空中へ浮かび上がった。

「上からの方が狙いやすいもんねー。悪手(あくしゅ)だったんじゃない?」

「……いや、狙い通りだよ」

 凍てつくような風が吹雪(ふぶ)いたかと思うと、霊媒師は無数の氷の刃に取り囲まれる。

 はっとして降り立とうとしたとき、突如として足元に氷塊が現れた。

 先端の尖った不規則な角錐(かくすい)が、いくつも伸びてくる。

「な……」

 慌てたものの、またしても身体が動かなくなる。

「きみ……!」

 憎々しげに奏汰を睨むけれど、もはやどうすることもできなかった。

 20秒後には、あるいは彼が拳を開いた時点で、この氷塊に落下して串刺しにされる。

 無情な秒読みは止まらない。

「お、覚えてなさいよ! 今日のこの屈辱は……死んでも忘れないんだから!」

 奏汰は荒い呼吸の中、ふっとやわく笑った。

「……よかったよ、きみたちにも“死”って概念があって」

「ふん、ばーか! わたしたちは死んでも死なないから。殺すならさっさとやれば!? 恨むけどね」

 子どもじみた態度と言い草に少し呆れつつ、20秒を待たずして握り締めた手を開く。
< 269 / 286 >

この作品をシェア

pagetop