ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
*



「あれ……?」

 蓮が教室に戻ったとき、そこには誰の姿もなかった。

 戸惑いつつ、きょろきょろと周囲を見回す。

「小春ー?」

 廊下にも出てみたが、小春の姿はない。

 机の上にあったはずの鞄も消えていた。

 待ちくたびれて先に帰ってしまったのだろうか。

 確かに、連れ出されてから三十分くらいは経ってしまっていた。

 蓮はスマホを取り出してみる。

【ごめん!瑠奈と先に帰るね、また明日!】

 小春からそんなメッセージが届いていた。

 蓮は何処となく心配になる。一人きりも危険だが、二人きりも危険だ。

 無論、瑠奈が魔術師でなければ安全なのだが。

 無事を確かめるため、小春に電話を掛けようとすると、一件のメッセージが届いた。瑠奈からだ。

【大事な小春ちゃんを助けたかったら、1人で河川敷に来ること!
武器は禁止!
リミットは日が落ちるまで。待ってるからね】

「は……?」

 脅迫めいた文章とともに、両足を石化された状態の小春の写真が添付されていた。

 考えるより先に身体が動き出す。

 蓮は素早くリュックを引っ掴み、脇目も振らずに駆け出した。

「くそ……っ」

 瑠奈は魔術師だった。和泉を殺した張本人だった。

 頭の中に駆け巡る悪い想像を振り払おうと、蓮は踏み出すごとに速度を上げた。

 急げ、間に合え────ひたすらに小春の無事を願いながら、河川敷を目指した。



 日は傾いているが、沈み切ってはいない。

 河川敷に下りると、蓮は周囲を見渡した。

「小春!」

 木の影、橋の下まで捜したが、誰の姿もない。

 小春もいなければ、瑠奈もいなかった。

 乱れた呼吸を整えるため、橋の下の壁に背を預ける。肺が熱いくらいだ。

 ふと足元に、砕けた石の残骸が広がっていることに気が付いた蓮は、急いで身を起こした。

 屈んで破片を拾い上げてみる。

「手、だよな……」

 一昨日、中庭で見た和泉の手を思い出す。

 まさか、これは小春の────。

 青ざめた蓮はスマホを取り出し、慌てて小春に電話を掛けた。

 頼む、出てくれ。無事でいてくれ。蓮は必死に祈った。

 応答を待つ時間が永遠のように感じられる。

 程なくして呼び出し音が切れた。
< 29 / 338 >

この作品をシェア

pagetop