ウィザードゲーム 〜異能力バトルロワイヤル〜
第6話 11月11日
いつものように蓮と登校し、小春は教室へ入った。
何気なく瑠奈に目をやる。琴音に助けられて以降は特に何も仕掛けてこない。
普段なら友だちと話している瑠奈だが、今日は一人で黙って席についていた。
顔色が悪く、何処か冷静さを失ったように余裕のない表情を浮かべている。
「……どうしたんだろう?」
「瑠奈か? さぁな、何かやらかしたんだろ。とうとうしくって、魔術師じゃない奴でも殺したか?」
蓮は瑠奈を一瞥すると言った。
「何にしても放っとこうぜ。下手に関わって襲われたんじゃ堪らねぇよ」
小春は瑠奈を見やる。
思い詰めたような顔が気にかかったが、またしても蓮の言うことを無視する勇気はなかった。
二の舞になったら、今度こそ皆に申し訳が立たない。
何事もなく昼休みを迎え、四人はいつものように屋上へ集った。
フルーツをつまみながら、琴音が訝しげに眉を寄せる。
「変だったわよね、瑠奈の様子。何かにひどく怯えてた」
昨日の琴音の忠告に恐れをなしているわけでは、さすがにないだろうに。
「うんうん、それな。あたしも見とって思ったんよなー」
不意に聞き慣れない声がした。
全員が驚愕に動きを止め、思わず視線を交わす。
誰だろう。周囲を見回しても誰もいない。
「ここや、ここ。あ、小春のプチトマト貰うな」
そう言われ、小春は膝の上に置いていた弁当箱を見下ろした。
そこにはプチトマトに手を伸ばす────小人がいた。
「おいおい……。何だよ、こいつ」
全員の困惑を蓮が代弁した。
小春はしかし、その小人が頭につけているリボンのカチューシャを見て、ぴんと来た。
「もしかして」
そう言いかけたとき、小人は元の大きさに戻った。
先ほどは両手でプチトマトを持って丁度くらいに見えたが、今は指先に収まっている。
彼女は小春たちと並んで座り、それを頬張った。
「お前は────」
慧も閃いたらしく、彼女を凝視する。
奏汰の家の前で消えた魔術師。そして小春たちがD組で見かけた女子生徒。
彼女はにっこりと人懐こく笑った。
「あたし、D組の有栖川美兎! よろしくー。見ての通り魔術師やで。皆からは“アリス”って呼ばれてるから、気軽にそう呼んでな」
あまりに堂々とした態度に呆気に取られてしまう。魔術師であることを隠そうともしていない。
「それより、何で私の名前……?」
さらりと呼ばれたが、小春は、アリスと話すのは今が初めてだったはずだ。
昨日手を振られたことと言い、アリスの側は知っているようだが。