冷徹官僚は高まる激愛を抑えきれない~独占欲で迫られ懐妊いたしました~
産みたい、とはっきり思った。たとえ彼に望まれない子でも、絶対に幸せにしてみせる……!
「っ、直利さん、私は……」
言い終わる前に抱きしめられた。かき抱くように強く。
「由卯奈……っ」
少し掠れた直利さんの声に目を丸くした。
なんで、そんな……嬉しくてたまらないみたいな声……?
「まだ確定ではありませんよ」
医師が苦笑して検査用紙を私にくれる。
「今から産婦人科にご案内しますから」
帰宅して……
白黒のエコー写真を見ながら、直利さんは膝の上に私を抱き上げて、信じられないくらい上機嫌な声で言う。
「男の子だろうか、女の子だろうか。どちらでもいいな、君に似てかわいいだろう」
うしろから私を抱きしめる彼の手が、優しく下腹部をなでる。
「君はなんて呼ばれたい? ママ? お母さんか」
「……っ、直利さん!」
私は身体を捩り、彼の顔を見る。直利さんは少し驚いた顔をした後、軽く眉を上げた。
「そんな姿勢になって! お腹に負担じゃないのか」
「少し振り向いたくらいでそんなこと! それより」
私は眉を下げた。
「ごめんなさい……」
「……なにが」
「妊娠、してしまって……離婚するかどうかってときに」
「離婚はしない」
「なぜ」
勝手に涙腺が緩み、ぽたんと水滴が零れた。
「さっきも言いました! 私はもうあなたの迷惑にしか──」
「迷惑とか離婚とか、さっきからなんなんだ」
やわらかな声で彼は言い、私の頬を両手で包む。
「君は俺の妻だ。一生守ると決めた。絶対に手放してなんかやらない」
「直利さん?」
「さっきは悪かった、貧血だって? 妊娠して体調がよくないのに、喧嘩なんかしてびっくりしたんだよな」
甘い甘い声は蕩けるように私をからめとる──
「な、なんで?」
疑問でいっぱいになり、震える瞳で彼を見つめる。
「私はもういらない妻のはずなのに」
「なぜそんなふうに?」
直利さんはそう言った後、苦しそうに眉を寄せた。
「そうだよな、信頼なんか……してもらえるはずがない。だが、君は俺の妻だ」
直利さんは私の手を握る。その手を自らの額にあて、まるで祈るように続けた。
「君のおかげで俺は初めて他人を愛おしく思う感情を知った」
目を瞠る──愛おしい? 誰を?
……私、を?
直利さんは顔を上げ、私の手に恭しく口づける。
「どれだけ感謝しているか、君にはわからないだろう? 生まれて初めて生きていてよかったと思ってるんだ」
自分の手の先が震えているのが見える。
「俺なんかにも人を愛せると、君が教えてくれた……どうかこれからもそばにいて」
喉の奥が詰まる。
言葉があふれそうになった。私も好きですって、愛してますって──
でもそれは、彼を縛ってしまう気がして。
切り捨てられなくさせてしまう気がして。
彼の将来を、奪ってしまう気がして……
ただ声帯が微かに震えただけで、はっきりとした言葉にはならなかったのだった。