二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
 涼は、口先が上手かった。 
 と言うよりも……相手が望む言葉、逆に嫌がる言葉を論理立てで推測し、当てにいくというゲームにハマっていた。
 相手の性格と、生活環境、そして趣味嗜好から男の好みを推測し、相手の理想通りの男を演じて口説いていく。
 それがピタリとはまったら、例えどんな趣味思考を持つ女でも堕としにいける。
 そんな仮説を証明するかのごとく、涼は様々な知識を吸収していった。
 ちなみに、大学受験はもちろん、在学中に受けた司法試験も同じような要領で涼はあっさりクリアした。
 司法試験を受けたのは「文系職種の資格の中で最も難しいもの」に挑戦したいという理由だけなのにも関わらず。本気で弁護士を目指している人間が聞いたら嘆き悲しむか、卒倒するかのどちらかだろう。
 高校の担任は

「それだけ頭が良ければ医者にでもなればいいのに」

 と、1度だけ涼に提案をしたこともあったが

「嫌ですよ、血の臭いは嫌いなんで」

 そんな理由であっさりお断りした。
 もちろん、それだけではなく暇つぶしに六法全書を読み漁ったことも相まって、法律の世界が涼にとってなんとなく居心地が良いものだと感じていた、というのもある。
 ただし、彼の居心地の良さというのは、一般的に言われているようなものでは決してない。
 彼は、好きなのだ。
 自分の策略で、言葉で、人が完膚なきまでに叩きのめされるのが。
 その時の、苦痛に歪んだ顔を見るのが堪らなく爽快なのだ。
 その次に、自分に何を与えてくれるのか予測できないのが、まさにそういった怒りや悲しみといった負の感情だったから。
 そんなわけで涼は、自分の知識と話術を巧みに使い、同時期にたくさんの女性と関係を持っていたこともあった。
 それぞれ全く違うタイプの女性で、攻略の仕方は全然違う。
 だが、涼はその攻略する過程こそ、大いに楽しみ……一夜を共にした後には次々と捨てていった。
 セックスの後の満足感から、攻略対象への興味を一気に失ってしまうというのが、涼だったから。
 そして、そんな女たちとの遊びは、弁護士の仕事をしていく中で必要な情報収集の中で大いに役に立ってしまった。
 その結果、涼は香澄のことを知るほんの数日前までは……仕事のためではあるのだが……少なくとも3人と交際状態になっていた。
 ただ、それから運命的に香澄のことを知り、香澄に興味を持ってからは、なんと全ての女性との連絡を断ってしまったのだ。
 仕事に必要な情報と、今後得る方法を全て構築してからではあったが……。

「君は、すごいよ。香澄。たった1時間の僕との会話で、こんな僕を夢中にさせたんだから」

 涼はそう言いながら、香澄のカバンから抜き取った「リュウ」の表紙をめくり、中身を見た。

「だからこそ、いくら僕に似ているとは言え、僕以外の男へ心を寄せることは、許せないな……」

 このノートを見た時、香澄に内緒で破り捨ててやりたい気持ちに何度もなった。
 けれど、香澄がこのノートに込めた思いも、自分は知っているつもりだった。
 それは、全部香澄と初めて会話をしたあの日を思い出せば、よく分かるから……。
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