二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
 カスタマーにとっての憧れはこういうもの。
 つまり、世間一般的に言われている、と、香澄が思っている内容から彼女の発言が構築されているのだ。

(拓人は、気づいているのだろうか)

 課題は「告白シチュエーションを思いつく限り書き出せ」だ。
 思いつく限りという言葉の中には、おそらく世間ではなく、香澄本人の意思も含めろという明言化されていない意志があるのではないかと、涼は勝手に解釈をした。

「ねえ、香澄」
「はい」
「君は、過去どんな場所だったら楽しいと思った?」
「私の……過去、ですか?どうして?」

(そう来ると、思ったよ)

「君がいう一般的な憧れは、時代や流行によって変わる可能性もあるだろう?」
「そんなことないと思います。昔からの普遍的なテーマは、いつの時代でも変わらないと、私は前から言っていたではないですか」

(なるほど)

 やはりと、涼は思った。
 拓人は、間抜けなところもあるが地頭は悪くない。
 自分と血が繋がっているから。
 だから、香澄の完全な弱点に気付いたのだろう。
 でなければ「思いつく」ではなく「探せ」で済むはずなのだ。
 この課題の肝になるのは、香澄が自分で思いつかなくてはいけないということ。
 そして、思いつくには、彼女自身の深掘りは必要。
 拓人はそれを教えるために、わざとこの課題を出したのだろう。

「君自身の中にも引き出しを作らなくてはいけないんじゃないかい?」
「私自身の中の引き出し?」
「君は普遍的なテーマだと言った。ということは、他の人間も同じことを考える可能性は十分ある」

 香澄の表情が少し曇った。
 しゅんと落ち込んだ様子も、可愛かった。

「だから、一旦憧れとか忘れて、自分の持ってる武器を知ろう」
「武器?」
「君の経験だよ」
「経験……」

(我ながら、本当に口が回るな)

 涼は内心で苦笑しながら、改めて香澄に尋ねた。

「香澄は、これまでどんな場所が楽しかった?」

 その言葉で、また香澄は考え込む仕草を始めた。
 1つ1つの仕草の可愛らしさと、考えれば考えるほど曇っていく香澄の表情のギャップに、涼は胸が締め付けられそうだった。

(何だろう、この気持ちは)

 守ってあげたい。
 笑わせてあげたい。
 頬を撫でたい。
 そんな色んな言葉が同時に脳に浮かび上がってくる。
 組み立てるのではなく、湧水のように自然と。
 自分がこんな風になるなんて、涼は不思議にすら思っていた。
 それから、香澄が考え込み始めてから約2分後。
 ようやく出てきたのは

「水族館」

 だった。
 香澄は、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
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