二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
(水族館……か……)

 涼も、何度か足を運んだことはあった。
 もちろん、過去の女たちを連れて、ではあったが。

(イルミネーションが見たいとか、よく聞かされていたな……)

 涼からすると、ただの色付き電球の何がそんなに面白いのか分からなかったが、それを見せに行くだけでご機嫌をとれるのであれば、コスパは良いイベントだとは思っていた。
 涼は尋ねた。

「クラゲのイルミネーションとか?」

 香澄は首を横に振った。
 涼は、自分の予想がまたもや外したことにドキドキした。
 でも、香澄のその時の表情を見て、すぐに自分の考えを捨てた。

「香澄……どうして泣いてるの?」
「え……っ!?」

 香澄は、焦った様子で涙を拭いながら聞いた。

「ど、どうして分かったんですか……?こっち、見えてないですよね……!」
「あー……それは……」

(しまった……!)

 涼は、自分がたったこれだけのことで焦ってしまうなんて知らなかった。
 普段の涼であれば、きっとここで

「ごめんね、実は全部見えてたんだ」

 と、真実を暴露したことだろう。
 けれど涼は、香澄に今それを伝えたくなかった。
 それをすれば、香澄との縁が切れてしまうかもしれないという予感がしたから。
 そんな予感を断ち切ろうとすることもまた、涼にとって初めてだった。
 涼は考えた。
 どうにか、今この場で誤魔化せないか、と。
 だが、いつもならするすると、頭が回るはずなのに、よりによってこの、最も失敗したくないタイミングで言葉がうまく出てこない。

(こんなこと、自分に起きるなんて……)

 涼は深呼吸した。
 そして改めて、画面に映る香澄を見た。
 香澄は、きょとんとした顔で自分の言葉を待っている。
 その表情も、拭い切れていない涙も何もかもが可愛すぎて仕方がなかった。
 そんな涼が選んだのは、この言葉だった。

「なんとなく、そうじゃないかと思ったんだ」

 苦しい言い訳だと思った。
 でも、これくらいしか思いつかなかった。
 それが、涼は悔しかった。
 言葉を巧みに操ることに自信があったからこそ、その自信をへし折られることになったのだから。
 さらに、その後の香澄の言葉は違う意味で涼の悔しさを増長させた。

「やっぱりそうなんですね!」
「え」
「さっきも先輩、私のこと気づいてくれましたもんね!やっぱり先輩すごい……尊敬します……!」

 目をキラキラさせて、拓人を褒めてきたので

(あとで風呂に沈めよう)

 と、涼は決意した。
 とはいえ、ここで疑いは一応晴れはしたので、涼は慎重に香澄に問いかけた。

「香澄は、水族館でどんな思い出があるの?」

 涼が尋ねると、香澄は少しの間唇をモゴモゴさせた後に、ちょっとずつ話してくれた。
 そして分かったこと。
 香澄が言う水族館というのが、父親と母親と3人で遊びに行った最後の場所だったということ……。
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