二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
 バスローブでリビングまでしずしずと歩いてきた香澄を見た瞬間、涼は手を伸ばしそうになった。

(いきなり手を出すのは、流石にまずい……!)

 涼はポーカーフェイスを得意としている。
 本人は面白くもない特技だと思ってはいた。
 だが、この日ばかりは自分の特技に感謝した。
 少しでも気が緩めば、ドロドロに蕩けた気持ち悪い自分の笑みを、香澄に見せるところだったから。
 香澄はキョロキョロとスイートルームを見渡している。
 あのキラキラした瞳で。
 その様子に、また涼はやられそうになる。

(これはもう、重症だな)

 流石に自分のこの状態が、恋の病と呼ばれているものであることくらいは、この時の涼には分かりきっていた。
 だが、分かっていることと、対処することはまた違う。現に涼は、恋の病への対処など1度もしたことがなかったので、とても困惑していた。

(何を話せばいいのか)

 涼は、ひたすら笑顔の仮面を被りながら、香澄が喜びそうなことを考えた。

(何も思いつかない……)

 特に何とも思わない人であれば、何を言ったところで……例え嫌われてしまったとしても、はいそうですか、とおさらばできる。
 だが、香澄は違う。おさらばしたくない唯一無二の存在。
 だからこそ、失敗したくないと思っていた。
 なので逆に香澄の方から

「チョコレートドーム……?」

 と可愛い口でつぶやいてくれたのは、涼にとってありがたいチャンスだった。

「気に入っていただけましたか?」

 涼が尋ねると、香澄は困惑はしていたみたいだった。

「あっ……あの……ありがとうございます……」

 こんな風に可愛らしい声で呟かれて、涼は舞い上がりそうな気分になった。

「気に入っていただけたようでしたら、何よりです。さ、おかけください」

 涼は、これはチャンスだとばかりに香澄の手を取った。
 小さくて柔らかく、温かい香澄の触感はこの数ヶ月、待ち望んでいたものだった。
 たったこれだけで幸せを感じる日がくるなんて涼は思いもしなかった。
< 120 / 204 >

この作品をシェア

pagetop