二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
 事務所での流れの一部始終を、涼は拓人に話した。

「香澄から聞いていた以上にひどいわね、その女。反吐が出そうだわ」
「お前は、香澄からどれくらい聞いているんだ?」
「そうね……」

 拓人は、少し考え込んでからこう言った。

「不倫を扱った作品の悪女の設定に使えそう、と思うくらいには……かしら」

 涼には、それが一体どこまでの情報なのかはまるで想像もつかなかった。

「と、言っても香澄のお母さんのその発言は、私も初耳だったわね」
「発言?」
「香澄が気づいたら、香澄の父親は死ななかったかもしれないのに、ってところよ」
「ああ……」
「ねえ、兄貴。それ、具体的に詳細聞いたの?聞いたなら私にも教えてちょうだい」

 涼は不思議だった。
 拓人がこの話題に妙に食いついてくるのか。

「拓人。香澄の母親は……一体香澄に何をしたのか、お前はどこまで知っている?」
「残念ながら、今兄貴が話したこと以外は、全部推測しかできないわ。香澄との仕事のやりとりからのね」
「例えば?」

 涼は、ほんの小さなヒントでもいいから知りたかった。だからがむしゃらに求めた。香澄の心が少しでもわかる情報を。

「……あの子が得意なシナリオって決まってるの」
「シナリオに、得意不得意なんてあるのか?」
「映画にもあるでしょう。恋愛とかファンタジーとかミステリーとか。……まあ、あんた基本的にフィクションは興味ないものね。所詮人間の作り物なんかって、よく馬鹿にしてたくらいだし……」

 そのことに関して、涼は否定できない。
 フィクションは、作る人間によって限界が決まるもの。つまり、その人間がわかればある程度の予測が立ちやすいと思っていたから、ゲームをするにしてもつまらないと、涼は本気で思っていた。
 その考え自体は今も変わらない。
 少なくとも、フィクションには答えはないだろう。
 何故、自分が香澄のことをこんなに愛しいと思ってしまったのか。
 あんなに欲望をぶつけ合ったはずの香澄が何故、あの日の朝、自分から去ろうとしたのか。
 もしも万が一、その答えを教えてくれるフィクションに何かがあると言うのなら、今すぐ教えてほしいとすら、涼は考えた。

「香澄は、どんなものが苦手なんだ?」
「家族もの。特に主人公が親から虐待されるものは、絶対に書けない」
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