二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
「虐待って……」

 拓人は、大きなため息をつきながらスマホを操作し、ある画面を見せた。
 アプリゲームらしき画面だということは、涼でも分かった。
 中世ヨーロッパ風の衣装に身を包んだキャラクターと背景が描かれていて、自分には馴染みのない絵だなというのが、涼の直感的な感想だった。

「あの子、基本的に仕事は何でもやらせてくださいって言うタイプなんだけど、この作品だけは途中で降りるしかなかったの」
「どうして……」
「この主人公の幼少期設定が問題だったのよ。実の両親には死なれて、義父母から虐待された挙句孤児院に置いていかれるってものだったから」
「それは……」

 涼は、これまで得た情報と照らし合わせることで気づいた。

「香澄の状況と、同じということか」
「そうとしか考えられないわ。お父様とお祖母様との死別の話は聞いていたけど……香澄の母親に関しては、私も情報不足だから確実なことは言えないけど」

 それからも、拓人は話を続けた。香澄がどんな思いでシナリオを書いているのかを。
 香澄は、自分の言葉で誰かを幸せにする物語を作りたいと言った。
 それは、シナリオを受け取るお客様だけでなく、シナリオに出てくる登場人物もそうだと。
 自分が与えるシチュエーションで、登場人物たちがみんな幸せになってほしい。そのお手伝いを自分がしたい。そう、香澄は言ったそうだ。

「あの子はこうも言ったのよ。自分の言葉で、誰かから置いていかれる辛さも、傷つけられる痛みもできることなら味わわせたくないってね。例え、それが二次元の中の……作り物の中の世界だったとしても」

 そう言いながら、拓人は涼を睨みつけた。
 涼は何故この話の流れで自分が睨まれるのかもまた、理解できずにいた。

「私はこう考えているの。あの子は置いていかれることに大きなトラウマを抱えているって。だから、あの子はもう2度と置いていかれることがないように、自分だけの世界を作ることで、ずっとあの子自身を守ってきた。だから、あの子は極端に三次元で関わる人を減らし続けた。その結果の今よ」

(僕は、そんな彼女に置いていかれたわけだけど……)

 涼は、ため息を吐きながら苦笑するしかできなかった。

「私は、あの子にはもっと出会う素晴らしさを知ってほしいと思う。あの子を自分勝手に置いていくことのない人間だって、この世界にはまだどこかにはいると思ってるのよ。……少なくとも、私みたいに」
「何言って……」

 拓人の言葉の真意を確認する前に、拓人はさらに言葉を重ねてきた。暴力的に。

「だから、あんただけは私、香澄に近づくことは耐えられないの」
「何故だ」
「あんたは、香澄のトラウマを大きくする人だから」

 あたかもそうであるかのように決めつけてくる拓人の言い回しに、涼もまた感情的になり始めていた。

「お前に、僕の香澄への気持ちがわかるのか!?」

 どれだけ探したか。
 彼女を想い眠れない日々が続いたか。
 もう1度出会えた瞬間どれだけ嬉しかったか。
 また置いていかれそうになって、どれだけ胸がかきむしられるような思いがしたか。
 そんな自分の気持ちが、拓人によって踏み躙られた気がした。

「あんたの気持ちなんかどうでもいい。あんたのこれまでの行動が問題なのよ」
「行動……?」
「ここまで言って、まだわかんないの?兄貴は常に女を置いて行く側。置いてかれる人間がどんなことを考えるかなんて、1度だって考えたことはないでしょう?そんな人間に、置いていかれることにトラウマ持ってる、うちの可愛い香澄を渡せるわけないでしょう」
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