二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
(どうして僕は、バレンタインのことを忘れていたんだろうか……)

 香澄が、もぐもぐと小さな口でチョコレートを味わっている様子を、涼はデレデレした顔で眺めつつも、心の中で後悔しっぱなしだった。
 それこそ、拓人が買ってきたチョコレートの店よりも、ずっと高級で美味しいところを涼は数多く知っている。
 そんな自分が、手も足も出せずに、拓人のチョコレートを嬉しそうにリスのように頬張る香澄をただ見ているしかできないなんて、本来ならあり得ないところだ。
 だが、それもこれも全て、涼の自業自得。
 もし、彼が今までの女性に対して少しでも誠実であったならば、今日がバレンタインデーという、男性に想いを寄せる女性や、恋人にとってはとても大切な、神聖なる日であったことに気づけたはずだから。

(それにしても……香澄は本当に可愛い……)

 あのスイートルームでも、香澄はチョコレートドームを特に美味しそうに頬張っていた。
 まだその時は「恋愛を教えてください」発言が香澄から出てこなかったので出来なかったが……。

「香澄」

 涼は、香澄の唇の横に手を伸ばした。

「チョコレート、ついてるよ」
「えっ!?」

 香澄の意識が、チョコレートから自分に移ったのが嬉しい涼は、そのまま親指で香澄の唇を拭ってやると、そのままぺろりと自分の親指を舐めた。

「ん。悪くないね」

 涼がそう言うのを、かあっと顔を真っ赤にした香澄が

「やめてください……恥ずかしい……」

 と言うのもまた、可愛いと思った。
 だからこそ、余計に悔しいと涼はますます思ってしまった。
 本来なら、香澄の舌を喜ばせるのも、香澄を照れさせるのも全て、自分だけの役割であるべきだと思っていたから。
 そんな2人の様子を間近で見ていた拓人は、大きな咳払いをした。
 2人の注目を集めるために。

「2人の世界に浸るのはいいけれど、これから本題話すから、ちゃんと聞いてよね」
「本題、ですか?」

 香澄はそう言いながら、拓人が持ってきたスーツケースに視線を向けた。

「そう言えば拓人先輩。また、取材旅行にでも行かれるんですか?」
「そうそう、本題はそれなのよ。香澄」
「はい」
「今日から私、ここに住むから」
「…………はい!?」
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