二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
「あんた達……」

 拓人の呆れた声が、涼と香澄の上に降ってきた。
 それから、また1つため息をついた。
「ねえ香澄」
「……はい……先輩……」
「そこの、顔だけ男はやる気みたいだし……悪阻が酷い間だけでも、こき使ってみない?」
「で、でも……」

 香澄は、両手の指の隙間から、涼を覗き込むように見てから、また指の隙間を閉じた。

「お、お忙しいでしょうし」
「僕の仕事はどこでもできるから、問題ないよ」

 涼はすぐさま答えた。
 それからも

「こんな家だと居心地が良くないのでは」
「僕はつい昨日までアパートで暮らしていたんだよ、もう忘れた?」

 などなど、香澄は涼が拓人の提案を断るであろう理由を探し、それを涼が即座に否定するという攻防戦が、数分ほど広げられた。
 その中で、最も涼に大ダメージを与えたのはこれだった。

「…………その…………すでに他にも色々お約束があるのでは?」
「約束?」
「…………綺麗な女の人とのお約束……とか?」
「あるわけない!!」

 涼は、この質問に対しては声を荒げてしまった。

(しまった……)

 香澄は、涼の大声に驚いたのだろう。
 びくりと体を震わせた。

「ご、ごめん香澄……驚かせるつもりはなかったんだ……」

 涼はすぐに香澄に謝罪した。

「私のことは、どうか、気になさらないでください。大丈夫ですから」

(何が?)

 と、涼が聞く前だった。
 香澄は涼の体をそっと押してから、ゆるゆると立ち上がった。

「拓人先輩」
「何?」
「お部屋の件ですが……今から2階の和室を綺麗にしてくるので、そこ使ってもらっていいですか」
「聞いてたの?掃除も全部、そこの顔だけ奴隷にやらせればいいのよ」

(顔だけ奴隷、ね……)

 言いたいことは山ほどあったけれど、拓人の動きが自分にとってのメリットがあることは十分分かっていたので、そのまま聞き流していた。
 聞き流すことができなかったのは、次の香澄の言葉の方。

「ごめんなさい、色々ご提案いただいて嬉しいんですけど……拓人先輩はともかく、涼先生だけは、やっぱり一緒の空間にいるのは申し訳なさすぎるので、お断りしたいです」
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